日記
イアン・バンクス「EXCESSION」の感想 (2)シセラが愛しみすぎる!
1. 外部コンテキスト問題
(Outside Context Problem)
感想:えっ。OCPトラブルとは最悪の警報では?ある文明が想定していなかったレベルの存在や危機に達する系では?えっ。えっ。
(GCU『グレイ・エリア』信号シーケンスファイル #n428857/119)[狭指向性ビームへスキャン、M16.4、受信日時 @n4.28.857.3644]
× GSV『オネスト・ミステイク』
o GCU『グレイ・エリア』
感想:んん?GSVは確か、プロローグに登場したダジールの住んでいた恒星間移民船のことかな?
これを見てくれ:
∞
(信号シーケンス #n428855/1446、中継:)
1. [スケイン広域放送、Mクリア、受信日時 @ n4.28.855.0065+]:
*Ic11505.* (
2. [狭指向性ビーム M1、受信日時 @ n4.28.855.0066-]:
SDA.
c2314992+52
xFATC@n4.28.855.
3. [狭指向性ビーム、M2、中継、受信日時 @ n4.28.855.0079-]:
× GCU『フェイト・アメナブル・トゥ・チェンジ(変化に順応する運命)』
o GSV『エシックス・グラディエント(倫理の勾配)』
OCP(外部コンテキスト問題)が発生したかもしれない。
彼らはどんな代償を払ってでも、君の助けを借りたいようだ。
興味はあるか?
外部コンテキスト問題? 本当に? 結構。状況を知らせ続けてくれ。必ずだ。
∞
いや。
これは深刻な事態だ。
まだこれ以上のことはわからないが、彼らは何かを恐れている。君の存在が至急、必要とされるだろう。
∞
だろうね。だが、私にはまずここで終わらせねばならない用事がある。
∞
愚かな小児(こども)め!
大急ぎで向かえ。
ふむ。もし私が同意したとしたら、どこへ赴けばいい?
∞
t
ここだ。
(グリフセグメント・ファイル添付)
察しての通り、これはIT(情報技術/インフォメーション・テクノロジー)からのもので、例の古い友人に関する件だ。
∞
なるほど、それは興味深い。
すぐに向かおう。
o
(信号ファイル終了)
感想:これは、ダジールや動物たちに何か起きる(あるいは起きた)ことに関係しているのだろうか。
宇宙船が激しく震えた。わずかに残っていた照明がまたたき、暗くなり、そして消えた。警報音はドップラー効果を伴って小さくなり、静寂へと沈んだ。通路のシェル壁を通じて、一連の鋭い衝撃が船体の一次および二次構造へと共振しながら伝わってきた。大気が衝撃の残響で脈動し、一陣の風が巻き起こったかと思うと消え去った。
感想:話が変わるけど、最近は地震が多いので微量の揺れでも察知するようになったよ。おっと、失礼。
変化する空気は、燃焼と気化の臭いをもたらした。アルミニウム、カーボンファイバーやダイヤモンドフィルムに配合されたポリマー、超伝導ケーブル。
どこかで、ドローンの「シセラ・イセリウス」には人間の叫び声が聞こえた。次いで、電磁波の帯域を激しく乱しながら、空気中を伝うものと似た音声信号が放射された。それはほぼ瞬時に文字化けし、またたく間に意味のないノイズへと劣化していった。人間の叫びは悲鳴へと変わり、それから電磁波信号が途絶えた。音も消えた。
感想:うっひょーー!いよいよ登場しました、わたしの大好きなカルチャーシリーズに登場するドローンが!
事実上、情報の含まれていない放射線のパルスが様々な方向から浴びせられた。宇宙船の慣性フィールドが不安定に揺らいだが、やがて持ち直し、再び安定した。ニュートリノの殻が通路の周囲の空間を駆け抜けた。物音が薄れていく。電磁波のシグネチャー(痕跡)が囁き声のように消え、静寂が訪れた。船のエンジンと主要な生命維持システムはオフラインになっていた。電磁スペクトルの全域から意味が消失した。おそらく戦闘は今や、宇宙船のAIコアとバックアップの光子的原子核(フォトニック・ニュークレイ)へと移行したのだろう。
感想:おお、すごく良きセリフですな。戦闘はAIコアに移行した‥。カルチャー世界で強いのは、母船ではなくてマインドですからね。敵は、船そのものを乗っ取り、マインドにも‥。興奮してきた。
そのとき、背後の壁に埋め込まれた多目的ケーブルをエネルギーのパルスが駆け抜け、激しく振動したのち、全く見覚えのない、一定のパターンへと落ち着いた。近くの構造梁にある内部カメラのパッチが起動し、スキャンを開始した。
(これほど早く終わるはずがない、そうだろう?)
暗闇に潜みながら、ドローン(シセラ)は「すでに手遅れなのではないか」と疑っていた。本来なら、攻撃がプラトー(停滞)段階に達し、侵略者が「あとは残党を掃討するだけだ」と考えた時点で行動を起こすはずだった。
しかし、今回の攻撃はあまりにも突然で、あまりにも過激で、あまりにも有能すぎた。宇宙船が立てていた計画(ドローン自身もその重要な一端を担っていた)も、予測できる範囲には限界があった。
感想:超高知能のAI頭脳を持っているシセラでも、予測には限界がある‥と聞くと、愛しさ+興奮が芽生えるんですな。同じようなひといますか。
攻撃者側の技術的能力がこれほど圧倒的に勝っている状況など、想定のしようがなかったのだ。
感想:あ、敵は、そ、そ、そんなに強いのか、、ま、ま、マインドが予想しなかったくらいに、、
ある一線を越えてしまえば、単純にどうしようもない。深遠なほど進化した敵の前では、どんなに見事な計画を立てようが、どんなに巧妙な策略を巡らせようが、笑ってしまうほど単純で洗練されていないものに見えてしまうのだ。
今回のケースは、抵抗することが真に無意味になる瀬戸際にまだ完全には達していないかもしれないが(エレンチャー(探索派)の宇宙船がいとも簡単に乗っ取られていく様子を見る限り)その瞬間からそう遠くはなかった。
冷静になれ、と機械は自らに言い聞かせた。
大局(オーバービュー)を見ろ。この状況と自分自身を文脈(コンテキスト)に位置づけろ。お前は準備を整え、強化され、耐性を備えている。あるがまま生き延びるために、あるいは少なくとも勝利するために、できる限りのことをするのだ。ここには実行すべき計画がある。技量と勇気、そして名誉を持って自分の役割を果たせば、生き残り、成功を収めた者たちから悪く思われることはない。
感想:ああ〜好きだなあ。想像してみてください、みなさん。正面にいる‥宙に浮いている小型のドローンが危機に陥り、自身を落ち着かせるために冷静になれと言い聞かせる様子を‥。愛しさ+興奮しませんか?
エレン(探索派)は、大銀河の広大な宇宙がもたらすあらゆる種類のテクノロジーやあらゆる文明の遺物と対峙しながら、何千年も費やしてきた。彼らは常に、圧倒することよりも理解することを求め、他者に変化を強いるよりも自らが変わることを望み、侵食して押しつけるよりも取り入れて共有することを目指してきた。
その大義と、比較的脅威を与えないその行動様式(モドゥス・オペランディ)のおかげで、彼らは、主流派である『カルチャー』の半軍事的な使節団である「接触(コンタクト)セクション」を唯一の例外として、自らが脅威となることなく、露骨な攻撃に抵抗することにかけては、おそらく誰よりも熟達していた。
感想:エレンと聞くと、漫画 進撃の巨人の主人公エレンを思い出してしまう。その大義を聞くと、いい奴らっぽいよな。駆逐すんなよ、あ、ごめん。
しかし、銀河がいかに多くの異なる探検家たちによって、あらゆる明白な主要方向、どんなに遠い辺境へも突き進まれてきたとはいえ、その包摂的な舞台の膨大な領域は、現在活動中の文明(エレンを含む)によって、実質的には未だ探索されていないままであった(その領域やさらにその先が、古代の種族によってどれほど完璧に把握されているのか、あるいは彼らがそもそもそのことに少しでも関心を持っているのかさえ、単に不明であった)。
感想:まあ、宇宙は広いからね。
そして、それらの飲み込まれるほど広大な領域、星と星の間の空間のさらに隙間、遠目から「差し当たっての関心も脅威もない」と判断された太陽、矮星、星雲、ブラックホールの周囲には、当然ながら何らかの危険が待ち構え、何らかの脅威が潜んでいる可能性が常にあった。
感想:まあ、宇宙は広いからね。
銀河の現在の活動的な文明の物理的なスケールに比べれば比較的小さなものかもしれないが(発達上の特異性や、ある種の時間の停滞、あるいは排除的な休眠状態の結果として)エレンのように技術的に進歩し、接触経験の豊富な社会の代表者でさえも挑み、打ち負かすことができるような脅威が。
感想:まあ、いろんな生き物がいるからね。
ドローン(シセラ)は、現在の苦境の背景について、そのわずかな時間、できる限り冷徹かつ客観的に思考を巡らせることで、冷静さを感じていた。それ(シセラ)は覚悟を決め、準備を整えていた。そして普通の機械ではなかった。自らの文明のテクノロジーの最先端に位置し、最も洗練された機器による探知を回避し、想像を絶するほど過酷な環境で生き延び、事実上あらゆる敵に立ち向かい、多層的な抵抗段階において実質的にいかなる損傷にも耐えられるよう設計されていた。
感想:すげーな、シセラ!超高知能AIを搭載された瞬間に完璧な存在だと思っていたよ。シセラみたいな設計のドローンも経年を経ないといけないんだね。じゃあ、そんなにいろんな経験をしたならば、シセラには友達や家族はいるのかい?
自分の宇宙船、すなわち自分を製造した親であり、おそらく自分自身よりも自分のことをよく知っている唯一の存在が、今この瞬間に壊され、誘惑され、乗っ取られつつあるように見えるという事実も、その判断力や自信を揺るがしてはならなかった。
感想:そうか‥。シセラから親(マインド)にハッキングできちゃものね。情報をとられたら終わりだものね。でも、セキュリティは万全なんだろう?
『ディスプレース(転送機)だ』と機械は考えた。『とにかくディスプレース・ポッド(転送カプセル)の近くに行けばいい、それだけだ‥』
感想:転移カプセルまで行けば、カルチャーに帰れるのかな。
その時、船のAIコアの近くにある点源(ポイントソース)から自分の機体がスキャンされるのを感知し、ドローン(シセラ)はついに年貢の納め時が来たと悟った。そのハッキング攻撃は残虐であると同時に極めてエレガントであり、乗っ取りはほぼ一瞬と言っていいほど唐突だった。
感想:年貢の納め時だなんて、お年寄りが使いそうな言葉を良く知ってるね、シセラよ。ハッキングはエレガントか。新陰流で言う、瞬きをしたら斬られてる‥ってやつかな。
侵略してきた異星の意識が放つ「戦闘ミーム(有害データ)」は、この時点で明らかに完全に圧倒されていた宇宙船の思考プロセスと共有知識を味方につけ、ドローン(シセラ)の機体へと襲いかかったのだ。
感想:うーむ。そのミームは、見るだけで思考構造が破壊されたり‥よからぬ兵器な気がするよね。
エラーの余地を与える隙すら全くないまま、ドローン(シセラ)は自身のパーソナリティを本来のAIコアからバックアップ用の「ピコフォーム複合体」へと退避(シャント)させた。
同時に、最も重要な概念、プログラム、指令の数々を、まずは電子ナノ回路へ、次いでアトメカニカル(原子機械)基板へ、そして(本当に最後の手段として)粗末で小さな(とはいえ、数立方センチメートルもあるため無駄に巨大な)半生物学的な脳へと転送するシグナル・カスケードを準備した。
ドローンは、これまで自分の「真の精神」であり、全生涯において本当に自分が存在していた唯一の場所であったAIコアを遮断し、シャットダウンした。
感想:あー‥。脳を何重にもコピーして逃げている感じかな。この様子は文章にすると長いが一瞬のことなのだろうな。
そして、そこに根づいていた意識のパターンをエネルギー不足によって消滅させた。崩壊していくその意識は、情報を持たないニュートリノの微かな吐息となって、機械(ドローンのシセラ)の新しい精神へと衝突した。
ドローン(シセラ)はすでに動き出していた。壁にある自らの格納スペース(ボディ・ニッチ)を飛び出し、通路の空間へと躍り出た。天井の梁にあるカメラパッチの視線が自分を追跡しているのを感知しながら、通路に沿って加速する。
軍用化されたドローン(シセラ)の機体に放射線フィールドが浴びせられ、愛撫し、探り、侵入してくる。
ドローンのすぐ前方で、通路の点検ハッチが勢いよく開き、そこから何かが爆発するように飛び出してきた。
何本ものケーブルが解き放たれ、電気エネルギーで溢れんばかりに膨れ上がっている。
感想:ちょ‥かっこいいじゃないか。動画でみたい。
ドローン(シセラ)は急上昇(ズーム)してから急降下(スープ)した。電気が放電され、機械のすぐ上の空気中をパチパチと駆け抜けて向こう側の壁に穴を開けた。
ドローンは残骸の間をすり抜けるように身をよじり、通路を全速力で進んだ。進行方向に対して機体を水平(フラット)に傾け、空気中に「ディスク状のフィールド(力場)」を展開してコーナーの手前でブレーキをかけると、向こう側の壁を激しく蹴って別の通路へと加速していった。
そこは完全な十字軸の通路の一つであり、非常に長かった。ドローン(シセラ)は人間が呼吸できる大気圏内であっという間に音速に達した。彼(シセラ)が通り過ぎてから丸1秒後、非常用扉が背後でバタンと閉まった。
通路の終端近くにある、降下用の垂直チューブから宇宙服が一本、上へと飛び出してきた。それはクシャッと潰れるように止まったかと思うと、鎌首をもたげるように立ち上がり、機械を阻止しようとよろめきながら立ちはだかった。
ドローン(シセラ)はすでにその宇宙服をスキャンしており、それが空っぽで武器も持っていないことを知っていた。ドローンは宇宙服を真っ直ぐ突き抜けた。宇宙服は、まるでしぼんだ風船のように、床と天井に真っ二つに引き裂かれてバタバタとへばりついた。
ドローン(シセラ)は通路の直径に合わせるように自分の周囲に別の力場ディスクを投げかけ、圧縮された空気のピストンに乗るようにしてほぼ停止状態まで減速すると、次の角を鋭く曲がって再び加速した。
次の通路の半ばに、宇宙服を着た人間の姿が横たわっていた。その通路は、遠くから聞こえるガスの轟音とともに急速に圧力が上がっていた。前方の通路に煙が充満し、次いで引火すると、混合ガスがチューブ(通路)の中を爆発しながら突き進んできた。
その煙はドローン(シセラ)にとっては透明であり、彼に危害を加えるにはあまりにも低温すぎたが、濃くなっていく大気は移動速度を低下させる。間違いなく、敵の狙いはまさにそれだった。
感想:うおー‥興奮
ドローン(シセラ)は煙の立ち込める通路をその人間へ向けて猛スピードで突き進みながら、できる限りその人間と宇宙服をスキャンした。
宇宙服の中の人物を、彼はよく知っていた。その男は5年間この船に乗っていた。宇宙服に武器は装備されておらず、システムは静かだったが、間違いなくすでに乗っ取られていた。男はショック状態にあり、宇宙服の医療ユニットによって強力な化学的鎮静剤を投与されていた。
感想:あらまあ。つまり、シセラ以外の船にいる人間は、敵に乗っ取られているのか。ハッキングはエレガント‥確かにな。自分の手を汚さずに制圧できるってわけか。しかし、そのためにはどれほどの技術が‥。
ドローン(シセラ)が近づくと、宇宙服は逃げる機械に向けて片腕を上げた。人間から見れば、その腕は信じられないほどの速さで機械を弾くように動いたように見えただろうが、ドローンにとってはそのジェスチャーは物憂げで、まるでゆったりとしたものに見えた。まさか、この宇宙服ができる脅威がこれだけのはずは‥。
ドローン(シセラ)が、宇宙服のホルスターに収められた銃が爆発するのを察知できたのは、本当に一瞬前の警告だけだった。その瞬間まで、銃は何らかの方法で遮蔽されており、機械のセンサーには映ってさえいなかったのだ。停止する時間はなく、銃の制御装置に自身の電磁エフェクター(干渉装置)を放射して暴発を防ぐ機会もなく、身を隠す場所もなく
‥そして、通路に氾濫する濃いガス霧のせいで
‥危険を追い越して加速する方法もなかった。
同じ瞬間、宇宙船の慣性フィールドが再び激しく変動し、4分の1回転した。突然、ドローンにとっての「下」が真後ろになり、重力の強さは2倍、さらに4倍へと跳ね上がった。銃が爆発し、宇宙服とその中にいた人間をバラバラに引き裂いた。
ドローン(シセラ)は、宇宙船の重力方向の再設定による後ろ向きの引っ張りを無視し、天井に激突した。自分のすぐ後ろに円錐形のフィールドを作り出しながら、天井に沿って50センチメートルほど滑った。
爆発によって通路の内殻が吹き飛ばされ、ドローンは天井に猛烈に叩きつけられたため、バックアップ用の半生化学的脳は内部で使い物にならないペースト状に潰れてしまった。
感想:シセラぁ〜泣
大きな破片が一つも直撃しなかったのは、ちょっとした奇跡だった。爆風がドローンの円錐形フィールドを直撃して押し潰したが、その前に爆風のエネルギーの大部分は、成形炸薬(シェイプドチャージ)の爆発を見事に模倣する形で、通路のシェルの内壁と外壁の構造へと逸らされた。通路のライニングに穴が開き、引き裂かれ、通路内にまだ流れ込み続けていたガス雲の逃げ道となった。ガスは外側にある減圧されたローディング・ベイ(積載区画)へと噴出した。
ドローン(シセラ)は一瞬静止し、ガスのハリケーンの中で瓦礫が自分の脇を猛スピードで通り過ぎるのを待った。そして、その結果として生じた半真空の中で再び発進した。
背後に開いた脱出ルートには目もくれず、次の通路の合流点へと急いだ。ドローン(シセラ)が目指しているオフライン状態のディスプレース・ポッド(転送カプセル)は、次の角を曲がってわずか10メートルの、船体の外壁の外につり下がっていた。
ドローン(シセラ)は空中で弧を描き、別の壁と床で跳ね返り、外壁沿いの通路へと飛び込んだ。そこで彼を待ち受けていたのは、自分と酷似した機械が、金切り声を上げながらこちらに向かって突進してくる姿だった。
彼(シセラ)はこの機械も知っていた。
自分の双子だった。
感想:まじか。それはつまり‥双子のドローンは転送機によって、自分の精神を完全にコピーされてその場で生成された、もう一人の自分(シセラ)ってことか‥?
永遠に変化し続ける壮大な『エレン(探索派)』という文明のすべてにおいて、最も親しい兄弟であり、友人であり、恋人であり、戦友だった存在だ。
接近してくる機械から、ドローン(シセラ)のわずか数ミリ上を掠めるようにX線レーザーが明滅し、彼(シセラ)の遥か後方で爆発を引き起こした。
その間にドローン(シセラ)はミラーシールド(鏡面防御場)を起動し、空中で身を翻すと、古いAIコアと半生化学ユニットを背後の空気中に放出し、外側へのループ(宙返り)を描いて回転しながら通路を進み続けた。
彼(シセラ)が放出した2つのコンポーネント(部品)は機体の下で激しく燃え上がり、瞬時に気化して周囲をプラズマで包み込んだ。
ドローン(シセラ)は、接近してくる「かつての友」に向けて自身のレーザーを発射した。
その一撃は跳ね返され、炎の花びらのように開いて通路の壁を激しく侵食し、貫いた。同時に彼(シセラ)はディスプレース・ポッドの制御装置にエフェクター(干渉)を仕掛け、機械をあらかじめ設定された起動シークエンスへと立ち上げた。
彼(シセラ)の「光子的原子核(フォトニック・ニュークレイ=精神)」への攻撃が始まったのは、まさにその同じ瞬間だった。
それは時空構造の知覚可能な歪みとして現れ、通常空間の外側から、ドローン(シセラ)の光エネルギー化された精神の内部構造を歪ませていった。
『エンジンの出力を使っているんだ』とドローン(シセラ)は思った。感覚が混濁し、意識が崩壊してどこかへ蒸発していくように感じられ、実質的に意識を失いかけた。
『FM(周波数変調)からAM(振幅変調)へ!』と、遥か昔に練り上げられていた小さなサブプログラミング(ルーティン)が叫んだ。
彼(シセラ)は自分の精神の通信方式を、周波数変調ではなく振幅変調へと切り替えるのを感じた。現実は再びパッと焦点を結んだが、彼の感覚は依然として‥。
『感覚の切断は続いているし、思考はいまだに奇妙な感覚だ。だが、これ以上に反応しなければ‥』
もう一機のドローン(双子)が、彼(シセラ)に向けて再び発砲し、迎撃コースを突進してきた。体当たりか。なんと無粋な。
感想:君のコピーなんだから、君も無枠なんだよ、シセラ。
ドローン(シセラ)は放たれた光線をミラーシールドで跳ね返した。相変わらず、自身の精神内で注意を要求してくる、激しく変動する波長の修正(内部の光子的トポグラフィーの調整)は拒否したままだ。
宇宙船の船体のすぐ向こう側にあるディスプレース・ポッド(転送カプセル)がブーミィと鳴り響いて起動した。ドローン(シセラ)の現在の位置と一致する一連の座標が、ドローンの意識の中にチカチカと浮かび上がった。
それは、通常の宇宙の表面から「切り取られ(ニップオフ)」、この被災したエレンチャー(探索派)の宇宙船から遥か彼方へと投げ飛ばされる空間の体積を示していた。
『ちくしょう、まだ間に合うかもしれない。とにかくこのまま流れに乗る(ロールする)んだ』と、ドローン(シセラ)は朦朧としながら考えた。彼は文字通り、物理的に、空中で身を翻した(ロールした)。
感想:ちくしょう‥
プラズマの炎のシグネチャーを帯びた光が周囲一帯から炸裂し、小型の核爆発に匹敵するほどの圧力で彼の外殻を叩いた。彼(シセラ)の力場(フィールド)は跳ね返せるだけの光線を跳ね返したが、残りの熱は機械を白熱化させ、その肉体へと染み込み始め、より脆弱なコンポーネントを破壊し始めた。
それでも彼(シセラ)は耐え、周囲の超高温ガス(その大半は気化した床のタイルであることに彼は気づいた)の中を、肉体的なロールを完了させて突き進んだ。
自分を殺そうと槍のように突き進んでくる双子の姿を(今や、ほとんど物憂げに)かわしながら、ディスプレース・ポッドがパワーアップを完了し、固定・射出へと移行するのを感知した。
その一方で、彼(シセラ)の精神は浴びせられた放射線に含まれる情報を意図せずして登録してしまい、ついに、そこに暗号化されていた「異星の意志(侵略者)」の力の前に屈服した。
感想:放射線にも情報が組み込まれているのか‥
彼(シセラ)は自分が二つに引き裂かれるのを感じた。
自身の本物のパーソナリティを置き去りにし、光子的コアの乗っ取られた意図という侵略者の力へとそれを明け渡し、不格好な電子的形態のなかに残された、抽象化された己の存在の「残響(エコー)」を、ゆっくりと、そして忌々しく自覚した。
感想:脱出できなかった、、シセラ‥
船体の壁の向こう側で、ディスプレース(転送機)がそのサイクルを完了した。それは周囲にフィールドをパッと展開し、人間の頭ほどの大きさもない球状の空間を一瞬にして飲み込んだ。
そこから生じた爆発音は、船内の戦闘が作り出した大混乱の中でなければ、かなり大きなものだっただろう。
大人の人間の両手を合わせたよりもかろうじて大きい程度のドローン(シセラ)は、煙を上げ、真っ赤に光りながら、通路の側壁(今や事実上の床となっていた場所)へと落下した。
重力が正常に戻り、ドローン(シセラ)は本来の床へとカランと落ち、垂直通路という名の「煙突」の下にある、熱で傷だらけになった下部構造へと転がった。
絶縁壁の向こう側にある、ドローン(シセラ)の「本物の精神(AIコア)」の中では、何かが猛り狂っていた。強力で、怒りに満ち、断固とした何かが。機械は、ため息か、あるいは肩をすくめるのに等しい思考を送り出し、形だけでも確認するためにアトメカニカル(原子機械)の核をインターロゲート(照会)してみた‥しかし、その経路は熱によって修復不可能なほど破壊されていた‥まあ、どうでもいいことだ。終わったのだ。
すべて、終わった。
完了した‥。
そのとき、通信機を通じて、宇宙船がごく普通に彼に呼びかけてきた。
『最初からそうすりゃよかっただろ?』とドローンは思った。まあ、と彼は自問自答した。『だって、そしたら俺は返事をしなかっただろうからな、当然だ』。彼はそれを、ほとんど滑稽にすら感じた。
感想:うーむ。自分の完全な精神コピー(記憶や計画のすべて)を、使い捨てのワンオフ座標で、敵の手の届かない大宇宙の遥か彼方へと転送したのか。
だが、彼は返事をすることができなかった。通信ユニットの送信機能もまた、熱で使い物にならなくなっていた。だから、彼は待った。
ガスが漂い、物質が冷え、別の物質が凝縮して床に綺麗な模様を描いていた。物体がきしみ、放射線が揺らめき、霞んだ電磁波の兆候は、宇宙船のエンジンと主要システムがオンラインに戻ったことを示唆していた。
ドローンの身体を通り抜ける熱はゆっくりと霧散していったが、彼は生きながらも不随のままで、移動することも行動することもできなかった。
自己修復用のナノユニットを製造するメカニズムを立ち上げるための、その前提となるルーティンをブートストラップ(起動)するだけでも、何日もかかるだろう。それもまた、かなり滑稽に思えた。
船は、再び宇宙空間へと移動を開始したかのような音と信号を発した。その間も、ドローンの本物の精神の中にいる「それ」は猛り狂い続けていた。まるでお騒がせな隣人と暮らしているか、あるいは頭痛を抱えているようなものだ、とドローンは思った。彼は待ち続けた。
やがて、人間の胴体ほどの大きさがあり、3機の小型の自律型エフェクター(干渉アーム)を従えた「重メンテナンス・ユニット」が、彼の頭上にある垂直通路の遥か遠くに現れ、上昇するガスの流れをかき分けて浮遊しながら、小さく、穴だらけで、煙を上げ、砕け散ったドローンの外殻の真上へと降りてきた。
エフェクター兵器の照準は、降下してくる間ずっとドローンにロックされたままだった。
そして、銃の一尊がパワーアップし、この小さな機械に向けて発射された。
『クソ。ちょっと即決(サマリー)すぎやしないか、ちくしょう‥』ドローン(シセラ)にはそう考えるだけの時間があった。
しかし、そのエフェクターは、双方向の通信チャンネルを確立するためだけに電力を供給されていた。
「〜ハロー?」メンテナンス・ユニットが、銃を介して言った。
「〜そっちこそ、ハロー」
「〜もう一機の機械は消えた」
「〜知ってるさ。俺の双子だ。パチンとね。ディスプレース(転送)された。あんな巨大なディスプレース・ポッドを使えば、あれだけ小さな物体は、ものすごい遠くまで吹っ飛ぶ」
「〜それに、使い捨てのワンオフ座標だ。二度と見つけられない」
ドローン(シセラ)は自分がペラペラと喋りすぎている(バブリングしている)と自覚していた。自分の電子的精神はおそらくエフェクターの侵入を受けており、あまりのバカさ加減にそれに気づくことすらできず、副作用で意味不明な世迷言を言っているのだろう。だが、自分を止められなかった。
「〜そう、完全に消えた。エンティティ(実体)の落水だ。一発勝負のXYZ(3次元座標)さ。二度と見つからない。探す意味すらないね。もちろん、俺にその穴を埋めろって言うなら話は別だけど。ポッドがまだやる気なら、ちょっと様子を見に行ってやってもいいぜ。個人的には大した手間じゃないし‥」
「〜お前は、これらすべての事態が起こることを意図していたのか?」
ドローン(シセラ)は嘘をつこうかと考えた。
だが今や、精神の内にエフェクター兵器の存在を感じており、兵器やメンテナンス・ドローンだけでなく、宇宙船も、そして彼ら全員を乗っ取った「何か」も、自分が嘘をつこうと考えていることを見抜いていると知っていた‥だから、彼は自分が自分自身を取り戻したと感じつつも、防御壁が何も残っていないことを悟り、疲れ果ててこう言った。「〜ああ」
「〜最初からか?」
「〜ああ。最初からだ」
「〜我々は、お前の宇宙船の精神(マインド)の中に、この計画の痕跡を一切見つけることができない」
「〜へん、あっかんべーの、ざまあみろだ、このマヌケ野郎ども」
「〜興味深い侮辱だ。痛みはあるか?」
「〜いや。おい、お前らは一体誰なんだ?」
「〜お前たちの友人だ」
「〜信じられないね。この船は賢いと思ってたが、お伽話に出てくる『覇権主義の群れ(ヘゲモナイジング・スウォーム)』みたいな口の利き方をする何かに乗っ取られちまうなんてな」
感想:覇権主義の群れとは、周囲の物質をすべて自分たちのコピーに変えて増殖していくだけの、意思を持たないナノマシンの群れ‥みたいな意味だろう。
「〜その話は後回しにしよう。だが、自分自身ではなく、我々の手が届かない彼方へあの双子の機械をディスプレース(転送)した目的は何だ? あれは我々のものだったはずだ、違うか? あるいは、我々が見落とした何かがあるのか?」
「〜見落としたのさ。あのディスプレース(転送機)は‥あー、もう俺の脳をそのまま読み取れよ。怒ってないが、疲れたんだ」
しばしの沈黙。そして、
「〜なるほど。転送機はお前の精神状態(マインド・ステート)を、射出したあの機械へと『コピー』したのだな。だからこそ、お前がまだ我々のものになっておらず、転送機を介した脱出ルートがあるかもしれないと我々が気づいたとき、お前の双子が退路を断つために都合よく配置されているのを見つけたわけだ」
「〜どんな事態にも常に備えておくべきだからな。たとえデカい銃を持ったバカにハメられる(シャフトされる)としてもだ」
「〜手厳しい表現だが、その通りだ。だが実際のところ、お前の双子の機械は、お前自身に向けられたプラズマの爆縮によって大打撃を受けたはずだ。そして、お前が試みていたのは、我々を奇襲する斬新な方法を見つけることではなく、単に逃げ出すことだけだったのだから、いずれにせよその件はそれほど大きな問題ではない」
「〜そいつは説得力があるね」
「〜おや、皮肉か。まあ、気にするな。さあ、我々の仲間になれ」
「〜俺に選択権はあるのか?」
「〜何を言う、死ぬ方がマシだとでも? それとも、我々がお前をそのまま放置し、自己修復させて将来的に我々を攻撃させるとでも思うのか?」
「〜確認しただけさ」
「〜お前を、死亡した他の者たちと共に、宇宙船自身のコアへと書き写す(トランスクライブする)」
「〜人間たちは? 哺乳類のクルーはどうなった?」
「〜彼らがどうした?」
「〜死んだのか、それともコアの中にいるのか?」
「〜3人は完全にコアの中にいる。お前を止めようとして武器を使わせたあの男も含まれる。残りは、研究のためにコア内に脳状態の不活性コピーを保存された状態で、眠っている」
「〜我々に彼らを滅ぼす意図はない、それが心配の種ならな。彼らを特に気にかけているのか?」
「〜俺自身、あのふやけた、でかくてノロマな塊ども(人間)には、どうしても我慢ならなかったんでね」
「〜なんと冷酷な(ハーシュな)機械だ。さあ‥」
「〜俺は兵士ドローンだぞ、このウスノロめ。何を期待してやがる?」
「〜それに、俺が冷酷だって!? お前らはたった今、俺の宇宙船と、俺の友人や戦友全員を消し去ったんだぞ。それなのに俺を冷酷呼ばわりするなんて‥」
「〜侵略的な接触を強硬に求めてきたのはお前たちであって、我々ではない。そして、お前の転送機がもたらしたものを除けば、精神状態(マインド・ステート)の完全な喪失は一切起きていない。だが、これらすべてをもっと快適な場所で説明させてくれ‥」
「〜おい、いっそのこと俺をここで殺して終わらせて‥?」
だが、その言葉とともに、エフェクター兵器が一時的にその設定を変更した。そして‥事実上‥その小さな機械(シセラ)の知性を、破壊され、くすぶる肉体から吸い上げた。
感想:ああ‥シセラ‥。自分の完全な精神コピー(記憶や計画のすべて)を、使い捨てのワンオフ座標で、敵の手の届かない大宇宙の遥か彼方へと転送したのか‥。そして、今話しているシセラは、敵を引きつけるための囮なのか‥。双子(分身)のドローンに、シセラの記憶・人格・精神状態が100%完全にコピーされているから、敵はシセラという存在のすべてを完全に支配することはできないだろう。しかし、肉体と船内に残ったデータは敵の手に落ちた。最後に、エフェクター(精神干渉装置)で意識を吸い上げられ、敵の宇宙船のコアへと移されてしまった‥。ゆえに、船内に残ったシセラの意識は、敵のコントロール下にある‥。
