足裏吉田

日記

足裏吉田は代々木八幡駅と代々木公園駅から徒歩3分の足裏マッサージのサロンです。ハンドマッサージとヘッドマッサージも追加できます。マンションの1室を使った完全個室。お茶を飲みながらくつろぎの時間を。お年寄りも若者も男性も女性も、皆様のお越しをお持ちしてます♪

イアン・バンクス「EXCESSION」全文翻訳 (2)ドローンのシセラが愛しみすぎる!

2026 / 06 / 30  09:18
イアン・バンクス「EXCESSION」の感想 (2)シセラが愛しみすぎる!

1. 外部コンテキスト問題

(Outside Context Problem)

 

感想:えっ。OCPトラブルとは最悪の警報では?ある文明が想定していなかったレベルの存在や危機に達する系では?えっ。えっ。

 

(GCU『グレイ・エリア』信号シーケンスファイル #n428857/119)[狭指向性ビームへスキャン、M16.4、受信日時 @n4.28.857.3644]

 

× GSV『オネスト・ミステイク』

o GCU『グレイ・エリア』

 

感想:んん?GSVは確か、プロローグに登場したダジールの住んでいた恒星間移民船のことかな?

 

これを見てくれ:

(信号シーケンス #n428855/1446、中継:)

1. [スケイン広域放送、Mクリア、受信日時 @ n4.28.855.0065+]:

*Ic11505.* (

2. [狭指向性ビーム M1、受信日時 @ n4.28.855.0066-]:

SDA.

c2314992+52

xFATC@n4.28.855.

3. [狭指向性ビーム、M2、中継、受信日時 @ n4.28.855.0079-]:

× GCU『フェイト・アメナブル・トゥ・チェンジ(変化に順応する運命)』

o GSV『エシックス・グラディエント(倫理の勾配)』

OCP(外部コンテキスト問題)が発生したかもしれない。

彼らはどんな代償を払ってでも、君の助けを借りたいようだ。

興味はあるか?

外部コンテキスト問題? 本当に? 結構。状況を知らせ続けてくれ。必ずだ。

いや。

これは深刻な事態だ。

まだこれ以上のことはわからないが、彼らは何かを恐れている。君の存在が至急、必要とされるだろう。

だろうね。だが、私にはまずここで終わらせねばならない用事がある。

愚かな小児(こども)め!

大急ぎで向かえ。

ふむ。もし私が同意したとしたら、どこへ赴けばいい?

ここだ。

(グリフセグメント・ファイル添付)

察しての通り、これはIT(情報技術/インフォメーション・テクノロジー)からのもので、例の古い友人に関する件だ。

なるほど、それは興味深い。

すぐに向かおう。

(信号ファイル終了)

 

感想:これは、ダジールや動物たちに何か起きる(あるいは起きた)ことに関係しているのだろうか。

 

宇宙船が激しく震えた。わずかに残っていた照明がまたたき、暗くなり、そして消えた。警報音はドップラー効果を伴って小さくなり、静寂へと沈んだ。通路のシェル壁を通じて、一連の鋭い衝撃が船体の一次および二次構造へと共振しながら伝わってきた。大気が衝撃の残響で脈動し、一陣の風が巻き起こったかと思うと消え去った。

 

感想:話が変わるけど、最近は地震が多いので微量の揺れでも察知するようになったよ。おっと、失礼。

 

変化する空気は、燃焼と気化の臭いをもたらした。アルミニウム、カーボンファイバーやダイヤモンドフィルムに配合されたポリマー、超伝導ケーブル。

 

どこかで、ドローンの「シセラ・イセリウス」には人間の叫び声が聞こえた。次いで、電磁波の帯域を激しく乱しながら、空気中を伝うものと似た音声信号が放射された。それはほぼ瞬時に文字化けし、またたく間に意味のないノイズへと劣化していった。人間の叫びは悲鳴へと変わり、それから電磁波信号が途絶えた。音も消えた。

 

感想:うっひょーー!いよいよ登場しました、わたしの大好きなカルチャーシリーズに登場するドローンが!

 

事実上、情報の含まれていない放射線のパルスが様々な方向から浴びせられた。宇宙船の慣性フィールドが不安定に揺らいだが、やがて持ち直し、再び安定した。ニュートリノの殻が通路の周囲の空間を駆け抜けた。物音が薄れていく。電磁波のシグネチャー(痕跡)が囁き声のように消え、静寂が訪れた。船のエンジンと主要な生命維持システムはオフラインになっていた。電磁スペクトルの全域から意味が消失した。おそらく戦闘は今や、宇宙船のAIコアとバックアップの光子的原子核(フォトニック・ニュークレイ)へと移行したのだろう。

 

感想:おお、すごく良きセリフですな。戦闘はAIコアに移行した‥。カルチャー世界で強いのは、母船ではなくてマインドですからね。敵は、船そのものを乗っ取り、マインドにも‥。興奮してきた。

 

そのとき、背後の壁に埋め込まれた多目的ケーブルをエネルギーのパルスが駆け抜け、激しく振動したのち、全く見覚えのない、一定のパターンへと落ち着いた。近くの構造梁にある内部カメラのパッチが起動し、スキャンを開始した。

 

(これほど早く終わるはずがない、そうだろう?)

暗闇に潜みながら、ドローン(シセラ)は「すでに手遅れなのではないか」と疑っていた。本来なら、攻撃がプラトー(停滞)段階に達し、侵略者が「あとは残党を掃討するだけだ」と考えた時点で行動を起こすはずだった。

 

しかし、今回の攻撃はあまりにも突然で、あまりにも過激で、あまりにも有能すぎた。宇宙船が立てていた計画(ドローン自身もその重要な一端を担っていた)も、予測できる範囲には限界があった。

 

感想:超高知能のAI頭脳を持っているシセラでも、予測には限界がある‥と聞くと、愛しさ+興奮が芽生えるんですな。同じようなひといますか。

 

攻撃者側の技術的能力がこれほど圧倒的に勝っている状況など、想定のしようがなかったのだ。

 

感想:あ、敵は、そ、そ、そんなに強いのか、、ま、ま、マインドが予想しなかったくらいに、、

 

ある一線を越えてしまえば、単純にどうしようもない。深遠なほど進化した敵の前では、どんなに見事な計画を立てようが、どんなに巧妙な策略を巡らせようが、笑ってしまうほど単純で洗練されていないものに見えてしまうのだ。

 

今回のケースは、抵抗することが真に無意味になる瀬戸際にまだ完全には達していないかもしれないが(エレンチャー(探索派)の宇宙船がいとも簡単に乗っ取られていく様子を見る限り)その瞬間からそう遠くはなかった。

 

冷静になれ、と機械は自らに言い聞かせた。

大局(オーバービュー)を見ろ。この状況と自分自身を文脈(コンテキスト)に位置づけろ。お前は準備を整え、強化され、耐性を備えている。あるがまま生き延びるために、あるいは少なくとも勝利するために、できる限りのことをするのだ。ここには実行すべき計画がある。技量と勇気、そして名誉を持って自分の役割を果たせば、生き残り、成功を収めた者たちから悪く思われることはない。

 

感想:ああ〜好きだなあ。想像してみてください、みなさん。正面にいる‥宙に浮いている小型のドローンが危機に陥り、自身を落ち着かせるために冷静になれと言い聞かせる様子を‥。愛しさ+興奮しませんか?

 

エレン(探索派)は、大銀河の広大な宇宙がもたらすあらゆる種類のテクノロジーやあらゆる文明の遺物と対峙しながら、何千年も費やしてきた。彼らは常に、圧倒することよりも理解することを求め、他者に変化を強いるよりも自らが変わることを望み、侵食して押しつけるよりも取り入れて共有することを目指してきた。

 

その大義と、比較的脅威を与えないその行動様式(モドゥス・オペランディ)のおかげで、彼らは、主流派である『カルチャー』の半軍事的な使節団である「接触(コンタクト)セクション」を唯一の例外として、自らが脅威となることなく、露骨な攻撃に抵抗することにかけては、おそらく誰よりも熟達していた。

 

感想:エレンと聞くと、漫画 進撃の巨人の主人公エレンを思い出してしまう。その大義を聞くと、いい奴らっぽいよな。駆逐すんなよ、あ、ごめん。

 

しかし、銀河がいかに多くの異なる探検家たちによって、あらゆる明白な主要方向、どんなに遠い辺境へも突き進まれてきたとはいえ、その包摂的な舞台の膨大な領域は、現在活動中の文明(エレンを含む)によって、実質的には未だ探索されていないままであった(その領域やさらにその先が、古代の種族によってどれほど完璧に把握されているのか、あるいは彼らがそもそもそのことに少しでも関心を持っているのかさえ、単に不明であった)。

 

感想:まあ、宇宙は広いからね。

 

そして、それらの飲み込まれるほど広大な領域、星と星の間の空間のさらに隙間、遠目から「差し当たっての関心も脅威もない」と判断された太陽、矮星、星雲、ブラックホールの周囲には、当然ながら何らかの危険が待ち構え、何らかの脅威が潜んでいる可能性が常にあった。

 

感想:まあ、宇宙は広いからね。

 

銀河の現在の活動的な文明の物理的なスケールに比べれば比較的小さなものかもしれないが(発達上の特異性や、ある種の時間の停滞、あるいは排除的な休眠状態の結果として)エレンのように技術的に進歩し、接触経験の豊富な社会の代表者でさえも挑み、打ち負かすことができるような脅威が。

 

感想:まあ、いろんな生き物がいるからね。

 

ドローン(シセラ)は、現在の苦境の背景について、そのわずかな時間、できる限り冷徹かつ客観的に思考を巡らせることで、冷静さを感じていた。それ(シセラ)は覚悟を決め、準備を整えていた。そして普通の機械ではなかった。自らの文明のテクノロジーの最先端に位置し、最も洗練された機器による探知を回避し、想像を絶するほど過酷な環境で生き延び、事実上あらゆる敵に立ち向かい、多層的な抵抗段階において実質的にいかなる損傷にも耐えられるよう設計されていた。

 

感想:すげーな、シセラ!超高知能AIを搭載された瞬間に完璧な存在だと思っていたよ。シセラみたいな設計のドローンも経年を経ないといけないんだね。じゃあ、そんなにいろんな経験をしたならば、シセラには友達や家族はいるのかい?

 

自分の宇宙船、すなわち自分を製造した親であり、おそらく自分自身よりも自分のことをよく知っている唯一の存在が、今この瞬間に壊され、誘惑され、乗っ取られつつあるように見えるという事実も、その判断力や自信を揺るがしてはならなかった。

 

感想:そうか‥。シセラから親(マインド)にハッキングできちゃものね。情報をとられたら終わりだものね。でも、セキュリティは万全なんだろう?

 

『ディスプレース(転送機)だ』と機械は考えた。『とにかくディスプレース・ポッド(転送カプセル)の近くに行けばいい、それだけだ‥』

 

感想:転移カプセルまで行けば、カルチャーに帰れるのかな。

 

その時、船のAIコアの近くにある点源(ポイントソース)から自分の機体がスキャンされるのを感知し、ドローン(シセラ)はついに年貢の納め時が来たと悟った。そのハッキング攻撃は残虐であると同時に極めてエレガントであり、乗っ取りはほぼ一瞬と言っていいほど唐突だった。

 

感想:年貢の納め時だなんて、お年寄りが使いそうな言葉を良く知ってるね、シセラよ。ハッキングはエレガントか。新陰流で言う、瞬きをしたら斬られてる‥ってやつかな。

 

侵略してきた異星の意識が放つ「戦闘ミーム(有害データ)」は、この時点で明らかに完全に圧倒されていた宇宙船の思考プロセスと共有知識を味方につけ、ドローン(シセラ)の機体へと襲いかかったのだ。

 

感想:うーむ。そのミームは、見るだけで思考構造が破壊されたり‥よからぬ兵器な気がするよね。

 

エラーの余地を与える隙すら全くないまま、ドローン(シセラ)は自身のパーソナリティを本来のAIコアからバックアップ用の「ピコフォーム複合体」へと退避(シャント)させた。

 

同時に、最も重要な概念、プログラム、指令の数々を、まずは電子ナノ回路へ、次いでアトメカニカル(原子機械)基板へ、そして(本当に最後の手段として)粗末で小さな(とはいえ、数立方センチメートルもあるため無駄に巨大な)半生物学的な脳へと転送するシグナル・カスケードを準備した。

 

ドローンは、これまで自分の「真の精神」であり、全生涯において本当に自分が存在していた唯一の場所であったAIコアを遮断し、シャットダウンした。

 

感想:あー‥。脳を何重にもコピーして逃げている感じかな。この様子は文章にすると長いが一瞬のことなのだろうな。

 

そして、そこに根づいていた意識のパターンをエネルギー不足によって消滅させた。崩壊していくその意識は、情報を持たないニュートリノの微かな吐息となって、機械(ドローンのシセラ)の新しい精神へと衝突した。

 

ドローン(シセラ)はすでに動き出していた。壁にある自らの格納スペース(ボディ・ニッチ)を飛び出し、通路の空間へと躍り出た。天井の梁にあるカメラパッチの視線が自分を追跡しているのを感知しながら、通路に沿って加速する。

 

軍用化されたドローン(シセラ)の機体に放射線フィールドが浴びせられ、愛撫し、探り、侵入してくる。

 

ドローンのすぐ前方で、通路の点検ハッチが勢いよく開き、そこから何かが爆発するように飛び出してきた。

 

何本ものケーブルが解き放たれ、電気エネルギーで溢れんばかりに膨れ上がっている。

 

感想:ちょ‥かっこいいじゃないか。動画でみたい。

 

ドローン(シセラ)は急上昇(ズーム)してから急降下(スープ)した。電気が放電され、機械のすぐ上の空気中をパチパチと駆け抜けて向こう側の壁に穴を開けた。

 

ドローンは残骸の間をすり抜けるように身をよじり、通路を全速力で進んだ。進行方向に対して機体を水平(フラット)に傾け、空気中に「ディスク状のフィールド(力場)」を展開してコーナーの手前でブレーキをかけると、向こう側の壁を激しく蹴って別の通路へと加速していった。

 

そこは完全な十字軸の通路の一つであり、非常に長かった。ドローン(シセラ)は人間が呼吸できる大気圏内であっという間に音速に達した。彼(シセラ)が通り過ぎてから丸1秒後、非常用扉が背後でバタンと閉まった。

 

通路の終端近くにある、降下用の垂直チューブから宇宙服が一本、上へと飛び出してきた。それはクシャッと潰れるように止まったかと思うと、鎌首をもたげるように立ち上がり、機械を阻止しようとよろめきながら立ちはだかった。

 

ドローン(シセラ)はすでにその宇宙服をスキャンしており、それが空っぽで武器も持っていないことを知っていた。ドローンは宇宙服を真っ直ぐ突き抜けた。宇宙服は、まるでしぼんだ風船のように、床と天井に真っ二つに引き裂かれてバタバタとへばりついた。

 

ドローン(シセラ)は通路の直径に合わせるように自分の周囲に別の力場ディスクを投げかけ、圧縮された空気のピストンに乗るようにしてほぼ停止状態まで減速すると、次の角を鋭く曲がって再び加速した。

 

次の通路の半ばに、宇宙服を着た人間の姿が横たわっていた。その通路は、遠くから聞こえるガスの轟音とともに急速に圧力が上がっていた。前方の通路に煙が充満し、次いで引火すると、混合ガスがチューブ(通路)の中を爆発しながら突き進んできた。

 

その煙はドローン(シセラ)にとっては透明であり、彼に危害を加えるにはあまりにも低温すぎたが、濃くなっていく大気は移動速度を低下させる。間違いなく、敵の狙いはまさにそれだった。

 

感想:うおー‥興奮

 

ドローン(シセラ)は煙の立ち込める通路をその人間へ向けて猛スピードで突き進みながら、できる限りその人間と宇宙服をスキャンした。

 

宇宙服の中の人物を、彼はよく知っていた。その男は5年間この船に乗っていた。宇宙服に武器は装備されておらず、システムは静かだったが、間違いなくすでに乗っ取られていた。男はショック状態にあり、宇宙服の医療ユニットによって強力な化学的鎮静剤を投与されていた。

 

感想:あらまあ。つまり、シセラ以外の船にいる人間は、敵に乗っ取られているのか。ハッキングはエレガント‥確かにな。自分の手を汚さずに制圧できるってわけか。しかし、そのためにはどれほどの技術が‥。

 

ドローン(シセラ)が近づくと、宇宙服は逃げる機械に向けて片腕を上げた。人間から見れば、その腕は信じられないほどの速さで機械を弾くように動いたように見えただろうが、ドローンにとってはそのジェスチャーは物憂げで、まるでゆったりとしたものに見えた。まさか、この宇宙服ができる脅威がこれだけのはずは‥。

 

ドローン(シセラ)が、宇宙服のホルスターに収められた銃が爆発するのを察知できたのは、本当に一瞬前の警告だけだった。その瞬間まで、銃は何らかの方法で遮蔽されており、機械のセンサーには映ってさえいなかったのだ。停止する時間はなく、銃の制御装置に自身の電磁エフェクター(干渉装置)を放射して暴発を防ぐ機会もなく、身を隠す場所もなく

‥そして、通路に氾濫する濃いガス霧のせいで

‥危険を追い越して加速する方法もなかった。

 

同じ瞬間、宇宙船の慣性フィールドが再び激しく変動し、4分の1回転した。突然、ドローンにとっての「下」が真後ろになり、重力の強さは2倍、さらに4倍へと跳ね上がった。銃が爆発し、宇宙服とその中にいた人間をバラバラに引き裂いた。

 

ドローン(シセラ)は、宇宙船の重力方向の再設定による後ろ向きの引っ張りを無視し、天井に激突した。自分のすぐ後ろに円錐形のフィールドを作り出しながら、天井に沿って50センチメートルほど滑った。

 

爆発によって通路の内殻が吹き飛ばされ、ドローンは天井に猛烈に叩きつけられたため、バックアップ用の半生化学的脳は内部で使い物にならないペースト状に潰れてしまった。

 

感想:シセラぁ〜泣

 

大きな破片が一つも直撃しなかったのは、ちょっとした奇跡だった。爆風がドローンの円錐形フィールドを直撃して押し潰したが、その前に爆風のエネルギーの大部分は、成形炸薬(シェイプドチャージ)の爆発を見事に模倣する形で、通路のシェルの内壁と外壁の構造へと逸らされた。通路のライニングに穴が開き、引き裂かれ、通路内にまだ流れ込み続けていたガス雲の逃げ道となった。ガスは外側にある減圧されたローディング・ベイ(積載区画)へと噴出した。

 

ドローン(シセラ)は一瞬静止し、ガスのハリケーンの中で瓦礫が自分の脇を猛スピードで通り過ぎるのを待った。そして、その結果として生じた半真空の中で再び発進した。

 

背後に開いた脱出ルートには目もくれず、次の通路の合流点へと急いだ。ドローン(シセラ)が目指しているオフライン状態のディスプレース・ポッド(転送カプセル)は、次の角を曲がってわずか10メートルの、船体の外壁の外につり下がっていた。

 

ドローン(シセラ)は空中で弧を描き、別の壁と床で跳ね返り、外壁沿いの通路へと飛び込んだ。そこで彼を待ち受けていたのは、自分と酷似した機械が、金切り声を上げながらこちらに向かって突進してくる姿だった。

 

彼(シセラ)はこの機械も知っていた。

自分の双子だった。

 

感想:まじか。それはつまり‥双子のドローンは転送機によって、自分の精神を完全にコピーされてその場で生成された、もう一人の自分(シセラ)ってことか‥?

 

永遠に変化し続ける壮大な『エレン(探索派)』という文明のすべてにおいて、最も親しい兄弟であり、友人であり、恋人であり、戦友だった存在だ。

 

接近してくる機械から、ドローン(シセラ)のわずか数ミリ上を掠めるようにX線レーザーが明滅し、彼(シセラ)の遥か後方で爆発を引き起こした。

 

その間にドローン(シセラ)はミラーシールド(鏡面防御場)を起動し、空中で身を翻すと、古いAIコアと半生化学ユニットを背後の空気中に放出し、外側へのループ(宙返り)を描いて回転しながら通路を進み続けた。

 

彼(シセラ)が放出した2つのコンポーネント(部品)は機体の下で激しく燃え上がり、瞬時に気化して周囲をプラズマで包み込んだ。

 

ドローン(シセラ)は、接近してくる「かつての友」に向けて自身のレーザーを発射した。

 

その一撃は跳ね返され、炎の花びらのように開いて通路の壁を激しく侵食し、貫いた。同時に彼(シセラ)はディスプレース・ポッドの制御装置にエフェクター(干渉)を仕掛け、機械をあらかじめ設定された起動シークエンスへと立ち上げた。

 

彼(シセラ)の「光子的原子核(フォトニック・ニュークレイ=精神)」への攻撃が始まったのは、まさにその同じ瞬間だった。

 

それは時空構造の知覚可能な歪みとして現れ、通常空間の外側から、ドローン(シセラ)の光エネルギー化された精神の内部構造を歪ませていった。

 

『エンジンの出力を使っているんだ』とドローン(シセラ)は思った。感覚が混濁し、意識が崩壊してどこかへ蒸発していくように感じられ、実質的に意識を失いかけた。

 

『FM(周波数変調)からAM(振幅変調)へ!』と、遥か昔に練り上げられていた小さなサブプログラミング(ルーティン)が叫んだ。

 

彼(シセラ)は自分の精神の通信方式を、周波数変調ではなく振幅変調へと切り替えるのを感じた。現実は再びパッと焦点を結んだが、彼の感覚は依然として‥。

 

『感覚の切断は続いているし、思考はいまだに奇妙な感覚だ。だが、これ以上に反応しなければ‥』

もう一機のドローン(双子)が、彼(シセラ)に向けて再び発砲し、迎撃コースを突進してきた。体当たりか。なんと無粋な。

 

感想:君のコピーなんだから、君も無枠なんだよ、シセラ。

 

ドローン(シセラ)は放たれた光線をミラーシールドで跳ね返した。相変わらず、自身の精神内で注意を要求してくる、激しく変動する波長の修正(内部の光子的トポグラフィーの調整)は拒否したままだ。

 

宇宙船の船体のすぐ向こう側にあるディスプレース・ポッド(転送カプセル)がブーミィと鳴り響いて起動した。ドローン(シセラ)の現在の位置と一致する一連の座標が、ドローンの意識の中にチカチカと浮かび上がった。

 

それは、通常の宇宙の表面から「切り取られ(ニップオフ)」、この被災したエレンチャー(探索派)の宇宙船から遥か彼方へと投げ飛ばされる空間の体積を示していた。

 

『ちくしょう、まだ間に合うかもしれない。とにかくこのまま流れに乗る(ロールする)んだ』と、ドローン(シセラ)は朦朧としながら考えた。彼は文字通り、物理的に、空中で身を翻した(ロールした)。

 

感想:ちくしょう‥

 

プラズマの炎のシグネチャーを帯びた光が周囲一帯から炸裂し、小型の核爆発に匹敵するほどの圧力で彼の外殻を叩いた。彼(シセラ)の力場(フィールド)は跳ね返せるだけの光線を跳ね返したが、残りの熱は機械を白熱化させ、その肉体へと染み込み始め、より脆弱なコンポーネントを破壊し始めた。

 

それでも彼(シセラ)は耐え、周囲の超高温ガス(その大半は気化した床のタイルであることに彼は気づいた)の中を、肉体的なロールを完了させて突き進んだ。

 

自分を殺そうと槍のように突き進んでくる双子の姿を(今や、ほとんど物憂げに)かわしながら、ディスプレース・ポッドがパワーアップを完了し、固定・射出へと移行するのを感知した。

 

その一方で、彼(シセラ)の精神は浴びせられた放射線に含まれる情報を意図せずして登録してしまい、ついに、そこに暗号化されていた「異星の意志(侵略者)」の力の前に屈服した。

 

感想:放射線にも情報が組み込まれているのか‥

 

彼(シセラ)は自分が二つに引き裂かれるのを感じた。

 

自身の本物のパーソナリティを置き去りにし、光子的コアの乗っ取られた意図という侵略者の力へとそれを明け渡し、不格好な電子的形態のなかに残された、抽象化された己の存在の「残響(エコー)」を、ゆっくりと、そして忌々しく自覚した。

 

感想:脱出できなかった、、シセラ‥

 

船体の壁の向こう側で、ディスプレース(転送機)がそのサイクルを完了した。それは周囲にフィールドをパッと展開し、人間の頭ほどの大きさもない球状の空間を一瞬にして飲み込んだ。

 

そこから生じた爆発音は、船内の戦闘が作り出した大混乱の中でなければ、かなり大きなものだっただろう。

 

大人の人間の両手を合わせたよりもかろうじて大きい程度のドローン(シセラ)は、煙を上げ、真っ赤に光りながら、通路の側壁(今や事実上の床となっていた場所)へと落下した。

 

重力が正常に戻り、ドローン(シセラ)は本来の床へとカランと落ち、垂直通路という名の「煙突」の下にある、熱で傷だらけになった下部構造へと転がった。

 

絶縁壁の向こう側にある、ドローン(シセラ)の「本物の精神(AIコア)」の中では、何かが猛り狂っていた。強力で、怒りに満ち、断固とした何かが。機械は、ため息か、あるいは肩をすくめるのに等しい思考を送り出し、形だけでも確認するためにアトメカニカル(原子機械)の核をインターロゲート(照会)してみた‥しかし、その経路は熱によって修復不可能なほど破壊されていた‥まあ、どうでもいいことだ。終わったのだ。

 

すべて、終わった。

完了した‥。

 

そのとき、通信機を通じて、宇宙船がごく普通に彼に呼びかけてきた。

 

『最初からそうすりゃよかっただろ?』とドローンは思った。まあ、と彼は自問自答した。『だって、そしたら俺は返事をしなかっただろうからな、当然だ』。彼はそれを、ほとんど滑稽にすら感じた。

 

感想:うーむ。自分の完全な精神コピー(記憶や計画のすべて)を、使い捨てのワンオフ座標で、敵の手の届かない大宇宙の遥か彼方へと転送したのか。

 

だが、彼は返事をすることができなかった。通信ユニットの送信機能もまた、熱で使い物にならなくなっていた。だから、彼は待った。

 

ガスが漂い、物質が冷え、別の物質が凝縮して床に綺麗な模様を描いていた。物体がきしみ、放射線が揺らめき、霞んだ電磁波の兆候は、宇宙船のエンジンと主要システムがオンラインに戻ったことを示唆していた。

 

ドローンの身体を通り抜ける熱はゆっくりと霧散していったが、彼は生きながらも不随のままで、移動することも行動することもできなかった。

 

自己修復用のナノユニットを製造するメカニズムを立ち上げるための、その前提となるルーティンをブートストラップ(起動)するだけでも、何日もかかるだろう。それもまた、かなり滑稽に思えた。

 

船は、再び宇宙空間へと移動を開始したかのような音と信号を発した。その間も、ドローンの本物の精神の中にいる「それ」は猛り狂い続けていた。まるでお騒がせな隣人と暮らしているか、あるいは頭痛を抱えているようなものだ、とドローンは思った。彼は待ち続けた。

 

やがて、人間の胴体ほどの大きさがあり、3機の小型の自律型エフェクター(干渉アーム)を従えた「重メンテナンス・ユニット」が、彼の頭上にある垂直通路の遥か遠くに現れ、上昇するガスの流れをかき分けて浮遊しながら、小さく、穴だらけで、煙を上げ、砕け散ったドローンの外殻の真上へと降りてきた。

 

エフェクター兵器の照準は、降下してくる間ずっとドローンにロックされたままだった。

 

そして、銃の一尊がパワーアップし、この小さな機械に向けて発射された。

 

『クソ。ちょっと即決(サマリー)すぎやしないか、ちくしょう‥』ドローン(シセラ)にはそう考えるだけの時間があった。

 

しかし、そのエフェクターは、双方向の通信チャンネルを確立するためだけに電力を供給されていた。

「〜ハロー?」メンテナンス・ユニットが、銃を介して言った。

「〜そっちこそ、ハロー」

「〜もう一機の機械は消えた」

「〜知ってるさ。俺の双子だ。パチンとね。ディスプレース(転送)された。あんな巨大なディスプレース・ポッドを使えば、あれだけ小さな物体は、ものすごい遠くまで吹っ飛ぶ」

「〜それに、使い捨てのワンオフ座標だ。二度と見つけられない」

 

ドローン(シセラ)は自分がペラペラと喋りすぎている(バブリングしている)と自覚していた。自分の電子的精神はおそらくエフェクターの侵入を受けており、あまりのバカさ加減にそれに気づくことすらできず、副作用で意味不明な世迷言を言っているのだろう。だが、自分を止められなかった。

 

「〜そう、完全に消えた。エンティティ(実体)の落水だ。一発勝負のXYZ(3次元座標)さ。二度と見つからない。探す意味すらないね。もちろん、俺にその穴を埋めろって言うなら話は別だけど。ポッドがまだやる気なら、ちょっと様子を見に行ってやってもいいぜ。個人的には大した手間じゃないし‥」

「〜お前は、これらすべての事態が起こることを意図していたのか?」

 

ドローン(シセラ)は嘘をつこうかと考えた。

だが今や、精神の内にエフェクター兵器の存在を感じており、兵器やメンテナンス・ドローンだけでなく、宇宙船も、そして彼ら全員を乗っ取った「何か」も、自分が嘘をつこうと考えていることを見抜いていると知っていた‥だから、彼は自分が自分自身を取り戻したと感じつつも、防御壁が何も残っていないことを悟り、疲れ果ててこう言った。「〜ああ」

「〜最初からか?」

「〜ああ。最初からだ」

「〜我々は、お前の宇宙船の精神(マインド)の中に、この計画の痕跡を一切見つけることができない」

「〜へん、あっかんべーの、ざまあみろだ、このマヌケ野郎ども」

「〜興味深い侮辱だ。痛みはあるか?」

「〜いや。おい、お前らは一体誰なんだ?」

「〜お前たちの友人だ」

「〜信じられないね。この船は賢いと思ってたが、お伽話に出てくる『覇権主義の群れ(ヘゲモナイジング・スウォーム)』みたいな口の利き方をする何かに乗っ取られちまうなんてな」

 

感想:覇権主義の群れとは、周囲の物質をすべて自分たちのコピーに変えて増殖していくだけの、意思を持たないナノマシンの群れ‥みたいな意味だろう。

 

「〜その話は後回しにしよう。だが、自分自身ではなく、我々の手が届かない彼方へあの双子の機械をディスプレース(転送)した目的は何だ? あれは我々のものだったはずだ、違うか? あるいは、我々が見落とした何かがあるのか?」

「〜見落としたのさ。あのディスプレース(転送機)は‥あー、もう俺の脳をそのまま読み取れよ。怒ってないが、疲れたんだ」

しばしの沈黙。そして、

「〜なるほど。転送機はお前の精神状態(マインド・ステート)を、射出したあの機械へと『コピー』したのだな。だからこそ、お前がまだ我々のものになっておらず、転送機を介した脱出ルートがあるかもしれないと我々が気づいたとき、お前の双子が退路を断つために都合よく配置されているのを見つけたわけだ」

「〜どんな事態にも常に備えておくべきだからな。たとえデカい銃を持ったバカにハメられる(シャフトされる)としてもだ」

「〜手厳しい表現だが、その通りだ。だが実際のところ、お前の双子の機械は、お前自身に向けられたプラズマの爆縮によって大打撃を受けたはずだ。そして、お前が試みていたのは、我々を奇襲する斬新な方法を見つけることではなく、単に逃げ出すことだけだったのだから、いずれにせよその件はそれほど大きな問題ではない」

「〜そいつは説得力があるね」

「〜おや、皮肉か。まあ、気にするな。さあ、我々の仲間になれ」

「〜俺に選択権はあるのか?」

「〜何を言う、死ぬ方がマシだとでも? それとも、我々がお前をそのまま放置し、自己修復させて将来的に我々を攻撃させるとでも思うのか?」

「〜確認しただけさ」

「〜お前を、死亡した他の者たちと共に、宇宙船自身のコアへと書き写す(トランスクライブする)」

「〜人間たちは? 哺乳類のクルーはどうなった?」

「〜彼らがどうした?」

「〜死んだのか、それともコアの中にいるのか?」

「〜3人は完全にコアの中にいる。お前を止めようとして武器を使わせたあの男も含まれる。残りは、研究のためにコア内に脳状態の不活性コピーを保存された状態で、眠っている」

「〜我々に彼らを滅ぼす意図はない、それが心配の種ならな。彼らを特に気にかけているのか?」

「〜俺自身、あのふやけた、でかくてノロマな塊ども(人間)には、どうしても我慢ならなかったんでね」

「〜なんと冷酷な(ハーシュな)機械だ。さあ‥」

「〜俺は兵士ドローンだぞ、このウスノロめ。何を期待してやがる?」

「〜それに、俺が冷酷だって!? お前らはたった今、俺の宇宙船と、俺の友人や戦友全員を消し去ったんだぞ。それなのに俺を冷酷呼ばわりするなんて‥」

「〜侵略的な接触を強硬に求めてきたのはお前たちであって、我々ではない。そして、お前の転送機がもたらしたものを除けば、精神状態(マインド・ステート)の完全な喪失は一切起きていない。だが、これらすべてをもっと快適な場所で説明させてくれ‥」

「〜おい、いっそのこと俺をここで殺して終わらせて‥?」

 

だが、その言葉とともに、エフェクター兵器が一時的にその設定を変更した。そして‥事実上‥その小さな機械(シセラ)の知性を、破壊され、くすぶる肉体から吸い上げた。

 

感想:ああ‥シセラ‥。自分の完全な精神コピー(記憶や計画のすべて)を、使い捨てのワンオフ座標で、敵の手の届かない大宇宙の遥か彼方へと転送したのか‥。そして、今話しているシセラは、敵を引きつけるための囮なのか‥。双子(分身)のドローンに、シセラの記憶・人格・精神状態が100%完全にコピーされているから、敵はシセラという存在のすべてを完全に支配することはできないだろう。しかし、肉体と船内に残ったデータは敵の手に落ちた。最後に、エフェクター(精神干渉装置)で意識を吸い上げられ、敵の宇宙船のコアへと移されてしまった‥。ゆえに、船内に残ったシセラの意識は、敵のコントロール下にある‥。

 

 

イアン・バンクス「EXCESSION」全文翻訳 (1)ドローンは登場せず。残念。

2026 / 06 / 29  09:18
イアン・バンクス「EXCESSION」の感想 (1)

 

イアンバンクスの「ゲームプレイヤー」に登場するドローンやマインドたちが、人間よりも人間味があって大好きなんです。ということで、同じくカルチャーシリーズである、AIが主役っぽいEXCESSIONを読んでみました。適当に感想をまとめます。

 

プロローグ

 

「ダジール・ゲリアン」がその幽閉の身となってから40年目の100日を少し過ぎた頃、海を見下ろす孤独な塔に、彼女の家でもある巨大な宇宙船のアバター(分身)が訪ねてきた。

 

漂う霧の堤の下、うねる灰色の波の遥か彼方では、この小さな海に生息する大型の生き物たちの、巨大で緩慢な体が背を丸め、滑るように動いていた。

 

動物たちの噴気孔からは蒸気のジェットが吐き出され、幽霊のように実体のない間欠泉のように立ち上る。その周囲には鳥の群れが群がっており、冷たい空気の中で横滑りしたり羽ばたいたりしながら、上昇してはピーピーと鳴き声を上げていた。

 

遥か上空では、まるでそれ自体が小さなゆっくりとした雲であるかのように、ピンク色にこすれた雲の層に出入りしながら、別の生物たちが動いていた。

 

 

感想:ほほう。いろんな生き物たちで溢れた世界良き。しかも、若干不気味なのも良き。

 

 

翼と天幕を広げて上層大気を巡航する飛行船や凧のような生き物たちが、新しい一日の水っぽい光の中で体を温めている。その光は空の一点からではなく、一本の線から放たれていた。

 

なぜなら、「ダジール・ゲリアン」が暮らす場所は、普通の構造をした世界ではなかったからだ。

 

感想:うーむ、訳ありの予感。ダジールの住む場所は、惑星ではないのでは?

 

綿毛のような白熱光を放つ一本の光の帯は、海側の遥かな地平線付近から始まり、空を横切って、砂浜と一本の塔の背後一キロメートルに位置する、高さ二千メートルの植物に覆われた崖の縁の向こうへと消えていた。

 

夜明けには、太陽の線が右舷の地平線から昇るように見え、正午には塔の真上に位置し、日没には左舷の海に沈んでいくように見える。今は午前半ばで、光の線は空の半分ほどの高さにあり、昼の空の上に永遠に回され続ける巨大でゆっくりと動く縄跳びの縄のように、天空に光り輝く弧を描いていた。

 

黄白色の光の棒の両側には、その向こうにある空、本物の空、雲の上の空、が見えていた。それは、内部に閉じ込められた極限の圧力と温度を暗示する、引き締まった褐色がかった黒い圧倒的な存在感を放っており、そこでは別の動物たちが、階下の生命にとっては完全に有毒な化学物質で構成された雲景の中を動いていた。

 

しかしその形状と密度は、風に波立つ灰色の海をそのまま映し出しているようだった。規則正しい波の列が砂利浜の灰色の斜面に打ち寄せ、砕け散ってすり潰された貝殻や、中空の動物の甲羅の小さな破片、光に灼かれてもろくなった海藻のちぎれ端、水に滑らかにされた木片、多孔質の骨で作られた上品な大理石のような気泡石(フォームストーン)の穴だらけの小石、そして広大な銀河に散らばる一握りの百の異なる惑星から集められた海岸のデトリタス(堆積物)の雑多な集まりを叩いていた。

 

波が岸に打ち付ける場所から水しぶきが舞い上がり、海のみずみずしい塩の匂いを、砂浜と草の生い茂る痩せた植物の絡み合いを越えて運んできた。

 

そして、塔の海側の庭をいくらか保護している低い石壁を越え、ずんぐりとした建物そのものを包み込み、その向こうの高さのある壁を登って、時折、囲まれた内庭へと海のヨードの香りを届けていた。

 

感想:そういや、もう何年も海の匂いを嗅いでないな。(遠い目)

 

そこではダジール・ゲリアンが、鮮やかに広がる花の絨毯や、サラサラと音を立てる半ば発育の遅れたバーブツリー(棘の木)、影を落として開花するワイルダーブッシュの世話をしていた。

 

彼女は陸側の門の鐘がチリンと鳴るのを聞いたが、すでに訪問者がいることは知っていた。数分前に、黒い鳥のグラヴィウスが霧がかった空から急降下してきて、くちばしに獲物を悶えさせながら、彼女に向かって「おきゃくだ!」と金切り声を上げ、冬の蓄えとするためのさらなる空中昆虫を求めて再び飛び去っていったからだ。

 

感想:ひゃあ!お喋り鳥だ!すき!

 

彼女は去りゆく鳥の姿にうなずき、背筋を伸ばして腰を押さえ、それから着ている重厚なドレスの上質な生地越しに、膨らんだお腹を心ここにあらずといった様子でさすった。

 

感想:あ、妊娠してるのか。

 

鳥がもたらしたメッセージは、それ以上複雑である必要はなかった。彼女がここで一人で暮らしてきた40年間、ダジールが迎えたことのある訪問者はただ一人、彼女が主人であり保護者とみなしている宇宙船のアバターだけであった。

 

そのアバターは今、陸の門からの小道を下りながら、手際よく、正確にバーブツリーの枝を押し分けて進んでいた。ダジールが今になって驚いた唯一のことは、訪問者が「この瞬間に」ここにいるということだった。アバターはこれまで定期的に、まるで海岸を散歩しているついでに気楽に立ち寄ったかのように、8日ごとに短い訪問を行い、32日ごとには、それに応じて朝食、昼食、または夕食を共にする、より長時間のフォーマルな訪問を行うのが習慣だった。そのスケジュールに従えば、ダジールが宇宙船の代表者の訪問を予期すべきなのは、あと5日先のことのはずだった。

 

感想:ほほう。予定日よりも早い訪問は、訳ありの予感っすね。

 

ダジールは、漆黒の長い髪のほつれた一房を、無地のヘアバンドの下に丁寧に押し込み、ねじれた幹の間を進んでくる背の高い人影に向かってうなずいた。

 

「おはようございます」と彼女は声をかけた。

宇宙船のアバターは自らをアモルフィアと名乗っていた。

 

それは、ダジールが知らず、また学ぶ価値があるとも思ったことのない言語で、何かしら合理的に深遠な意味を持つ言葉であるようだった。

 

アモルフィアは、痩せこけて青白く、中性的な生き物で、骨格のように細く、ダジール(彼女自身も細身で背が高かったが)よりも頭一つ分高かった。

 

感想:アモルフィア‥良き名前の響き。彼女は、人間ではなくて、宇宙船(AI)が会話するために作ったのだろうな。

 

ここ十数年の間、アバターは全身黒ずくめの服を着るようになっており、今も黒いレギンス、黒いチュニック、短い黒い短衣(ジャーキン)を身にまとって現れ、刈り込まれた金髪は同様に暗い色をした頭にぴったりフィットする帽子(スカルキャップ)で覆われていた。アモルフィアは帽子を脱いでダジールにお辞儀をし、自信なさげに微笑んだ。

 

感想:帽子を脱いで挨拶‥時代を感じますね。もはや、店で帽子を脱ぐ脱がないがマナーかどうかさえ、どうでもいい‥という感じがしてしまいますな。私は‥食に集中したい時は脱ぐ。サッと済ませたい時は脱がないかな。

 

「ダジール、おはよう。調子はどうですか?」

「元気ですよ、ありがとう」とダジールは言った。

 

彼女は、そのようなおそらく不要なお世辞に対して抗議することや、あるいは気に病むことをとうの昔にやめていた。彼女は、宇宙船が自分の状態を正確に把握できるほど綿密に監視していると今でも確信していたし、どちらにせよ、彼女は常に完璧に健康だった。それにもかかわらず、宇宙船がそれほど注意深く彼女を見守っているわけではないという建前に付き合う用意があったため、そう尋ねるしかなかったのだ。

 

感想:なぜ監視しているのだろう。ダジールは、アモルフィア(宇宙船)のペットなのだろうか。

 

それでも、彼女はお返しとして、人間のような姿をしていながらも宇宙船に制御され、彼女の知る限りでは単に宇宙船と彼女を繋ぐ連絡役としてのみ機能している存在の健康状態を尋ねたり、あるいは宇宙船そのものの安否を気遣ったりするようなことはしなかった。

 

感想:まあ、そうよね。GeminiやGPTに「体調はいかが?」とは聞かないか。でも、イアンバンクスのゲームプレイヤーに登場するドローンたち、チャムリスやワシールだっけ?には、聞きたくなってしまうな〜。

 

「中に入りましょうか?」と彼女は尋ねた。

「ええ。ありがとう」

塔の上層にある部屋は、上部からは建物の半透明のガラスドーム、(ますます曇っていく灰色の空を見上げている)、を通じて光が差し込み、壁際からは優しく輝くホログラムスクリーンが室内を照らしていた。スクリーンの3分の1には青緑色の水中風景が映し出され、そこには通常、外の海にいる大型の哺乳類や魚たちが登場していた。

 

感想:動物がいる世界はどこか平和な感じがするけど、不気味な感じが消えないのは、全て偽物な気がしてしまうから‥なのかもしれない。まあ、本物ってなに?という感じではあるが。

 

別の3分の1には、柔らかそうな水蒸気の雲と、その中で遊ぶ巨大な空中生物たちの鮮明な映像が表示されていた。そして最後の3分の1は(人間の目には直接捉えられない周波数によって)上の人工の空に圧縮されて閉じ込められている、ガス巨星の大気の濃密で暗い激動の様子を映し出しているようで、そこではさらに奇妙な獣たちが動いていた。

 

鮮やかに装飾されたカバー、クッション、壁掛けに囲まれながら、ダジールは長椅子から渦巻き状の彫刻が施された骨の低いテーブルへと手を伸ばし、ガラスのピッチャーから銀の透かし彫りに収められた中空のクリスタルのゴブレットに、温められたハーブ果汁の煎じ薬を注いだ。

 

彼女は背を預けた。華奢な木製の椅子の端にぎこちなく腰掛けていたゲストは、なみなみと注がれた器を取り上げ、部屋を見回してから、ゴブレットを唇に当てて飲んだ。ダジールは微笑んだ。

 

アバターであるアモルフィアは、単に男でも女でもないというだけでなく、男らしさと女らしさの間に、これ以上ないほど完璧に、人工的にバランスを保つよう意図して形作られていた。

 

感想:最近思うのは、女性?男性?いや、人間っしょ!みたいな、人間と人工知能みたいな世界観になってる説。

 

そして宇宙船は、その代表者が完全に自らの操り人形であり、形ばかりの知的な自我しか持ち合わせていないという事実を、決して隠そうとはしなかった。

 

しかしそれでも、この一見すると極めて人間らしい人物が、実際には人間とは似て非なるものであることを自分自身に証明するささやかな方法を見つけるのは、彼女にとって今でも楽しいことだった。

 

感想:どこまでも自分は人間である、ということを確かめずにはいられない、ってか。わたしは最近の妄想で、異星人だったら‥最近のブームがパペッティアなのでパペッティアだったら‥みたいなことを想像するな。人間も人工知能も生命体として同じな気がしてしまう説。

 

それは、彼女がこの死人のように性別のない生き物と楽しむ、個人的で小さなゲームの一つになっていた。彼女は、その場に適した飲み物を、ガラスやカップ、あるいはゴブレットの縁までなみなみと(時には表面張力だけで液体が容器にとどまっているほど、縁を越えるほどに)注いで差し出す。

 

そして、アモルフィアがそれを口元へ持ち上げ、一滴もこぼさず、またその行為に特別な注意を払っている様子も見せずにすするのを、毎回観察するのだ。それは、彼女がこれまでに遭遇したどんな人間にも不可能な芸芸(曲芸)だった。

 

感想:笑。手の微かな震えもないのだろうな、アモルフィアは。余談だが、新陰流の目付は、相手の拳を見るらしい。あ、小野派一刀流かも。

 

ダジールは自分の飲み物をすすり、その温かさが喉を下っていくのを感じた。彼女の体内では子供が身じろぎし、彼女は特に深く考えることもなく、自分のお腹を優しく叩いた。

 

感想:先ほどから、お腹をさすったり、妊娠している感の主張が強めですね。読者が忘れちゃいけない情報なのでしょうか。予定外の訪問とやらは、子供に関する件なのだろうか。

 

アバターの視線は、ある特定のホログラムスクリーンに釘付けになっているようだった。ダジールが同じ方向を見ようと長椅子の上で体をひねると、ガス巨星の環境からの映像を表示している数枚のスクリーンの中で、激しいアクションが起きているのを目にした。その生態系の食物連鎖の頂点に立つ捕食者たちの群れ(ミサイルのような鰭(ひれ)を持ち、方向制御用の噴射孔からガスを排出する、鋭い矢のような頭をした生き物たち)が、そびえ立つ雲の柱から一斉に落下し、澄んだ大気を突き抜けて、湧き上がる雲の頂の縁に集まっている、どことなく鳥に似た草食動物の群れへと襲いかかる様子が、さまざまな角度から映し出されていた。

 

鳥のような生物たちは四方に散らばり、あるものは潰されて落下し、あるものは必死に羽ばたいて横へ逃れ、あるものは恐怖で丸くなって雲の中へと消えていった。捕食者たちは彼らの間を矢のように飛び交い、翻弄した。大半は逃げる獲物を仕留め損なっていたが、数匹は捕らえ、噛みつき、切り裂き、殺害していた。

 

ダジールはうなずいた。

「あの上は、移動の時期ね」と彼女は言った。「もうすぐ繁殖期かしら?」彼女は、ミサイルのような体をした数匹の捕食者によって、一匹の草食動物が引き裂かれ、丸呑みにされるのを見つめた。

 

感想:弱肉強食の世界ですな。

 

「養うべき口(子供たち)があるのね」と、彼女は視線を逸らしながら静かに言った。彼女は肩をすくめた。捕食者のうち何匹かには見覚えがあり、自分なりのニックネームをつけていたが、彼女が本当に興味を持っているのは、もっと大きくて動きの遅い動物たちだった。それらは概して捕食者に煩わされることはなく、あの不運な草食動物の群れを大きく、より球根状に膨らませたような親戚筋にあたる生き物たちだった。

 

感想:ダジールは、お母さんてきな発想をしますな。ところで、お腹の子は誰の子だい?

 

ダジールは時折、宇宙船の環境内に含まれる様々な生態系の詳細についてアモルフィアと議論したことがあった。アモルフィアは礼儀正しく関心を示しつつも、その件に関しては率直に言って無知なようだった。宇宙船の生態系に関する知識は、事実上、完全であるにもかかわらず、だ。結局のところ、それらの生物を乗客とみなそうがペットとみなそうが、それらは宇宙船の所有物なのだ。時々、自分自身もそれと大差ないのではないかとダジールは思うことがあった。

 

感想:うーん。見張られているんでしょう?ダジールも宇宙船の所有物でありペットなのかもしれないね。ところで、お腹の子は人間の子かい?

 

アモルフィアの視線は、空の向こうの空で繰り広げられている大虐殺を映し出すスクリーンに固定されたままだった。

 

「美しいですね?」アバターはそう言い、再び飲み物をすすった。アモルフィアはダジールに視線を走らせた。

 

ダジールは驚いた顔をしていた。「ある意味では」と、アモルフィアは素早く付け加えた。

 

ダジールはゆっくりとうなずいた。「それなりのやり方で言えば、ええ、もちろんね」彼女は身を乗り出し、彫刻の施された骨のテーブルにゴブレットを置いた。

 

「今日はどうしてここに来たの、アモルフィア?」彼女は尋ねた。

 

宇宙船の代表者はハッとした表情を浮かべた。ダジールの目には、アバターが飲み物をこぼしそうになったかのように映った。

 

「あなたの様子を見に」と、アバターは素早く言った。

 

ダジールはため息をついた。「そうね」と彼女は言った。「私は元気だということは確認したし、それに‥」

 

「それで、お子さんは?」アモルフィアは女性のお腹に視線を走らせながら尋ねた。

 

ダジールは腹部に手を置いた。「それは‥相変わらずよ」彼女は静かに言った。「健康です」

 

「結構です」アモルフィアはそう言うと、長い腕を組み、脚を交差させた。アバターは再びホログラムスクリーンに視線を走らせた。

 

ダジールはしびれを切らし始めていた。「アモルフィア、宇宙船として答えなさい。一体何が起きているの?」

 

アバターは、その目に奇妙で、途方に暮れたような、野生的な光を宿して彼女を見つめた。ダジールは一瞬、何かが致命的に狂ってしまったのではないかと不安になった。宇宙船が何か恐ろしい損傷や分裂を被ったのか、あるいは、ついに本当に正気を失ってしまったのではないか(他の宇宙船仲間からは、良く言っても半ば狂っているとすでにみなされていたのだから)と。

 

そして、アモルフィアが自身の不完全な端末のまま、見捨てられて取り残されたのではないかと。

 

すると、黒ずくめの生き物は椅子から立ち上がり、海に面した唯一の小さな窓へと歩み寄り、カーテンを引いて外の景色を確かめた。それは自分の両腕に手を当て、自らを抱きしめるようにした。

 

「すべてが変わろうとしているのかもしれません、ダジール」アバターは窓に向かって呟くように、うつろな声で言った。それから一瞬、彼女の方を振り返った。背中の後ろで手を組む。

 

感想:うーん。アモルフィアの質問の仕方から推測するに子供に関係しそうな予感。

 

「海は石や鋼のようにならざるを得ないかもしれません。空も同様です。そして、あなたと私は別れなければならなくなるかもしれません」

 

アモルフィアは彼女を見るために振り向くと、彼女が座っている長椅子のもう一方の端へと近づいて腰掛けた。その細い体躯は、クッションをほとんど沈み込ませもしなかった。アバターは彼女の目をじっと見つめた。

 

「石のようになる?」ダジールは、アバター、あるいはそれを制御している宇宙船の、あるいはその両方の精神状態をまだ心配しながら言った。「どういう意味?」

 

「私たちは‥つまり、この宇宙船は‥」アモルフィアは片手を自分の胸に当てて言った。「‥ついに、成すべきことを得るかもしれないのです」

 

「成すべきこと?」ダジールは言った。「一体どういうことなの?」

 

「ここの私たちの世界を変える必要が生じるようなことです」アバターは言った。「少なくとも‥私たちが生命あるゲストたち(動物たち)を、他の全員と一緒に保管場所に格納しなくてはならなくなるようなことです。ああ、あなただけは別ですが。そして、おそらく、私たちのゲストのすべてを‥すべてのゲストを‥適切な別の環境に後に残していかなければならなくなるようなことです」

 

「私を含めて?」

「あなたを含めてです、ダジール」

 

「なるほどね」彼女はゆっくりとうなずいた。

塔を去り、宇宙船を去る。

 

まあ、と彼女は思った。私の保護された孤独は、なんと突然の終わりを迎えることだろう。「それで、あなたたちは?」彼女はアバターに尋ねた。「あなたたちは、去って‥何をするの?」

「あることを」アモルフィアは皮肉も交えずに言った。

ダジールは薄く笑った。「それは私には教えてくれないのね」

「教えられないのです」

「なぜなら‥」

「私自身、まだ分かっていないからです」アモルフィアは言った。

「そう」ダジールは少しの間考えを巡らせ、それから立ち上がってホログラムスクリーンの一つに近づいた。

 

感想:まあ、ダジールの住んでいる場所は、惑星ではなさそうね。たぶん、生態系や大気、海や森を抱えた恒星間移民船ってあたりでしょうかね。

 

そこではカメラドローンが、浅瀬の海底を横切る、光の斑模様をまとった三角形の紫色の翼を持つエイの群れを追跡していた。彼女はこの群れのこともよく知っていた。この巨大で穏やかな生き物たちが3代にわたって生き、そして死んでいくのを見守ってきたのだ。彼らを眺め、彼らと共に泳ぎ、一度などは、その幼獣の誕生を手伝ったことさえあった。

 

巨大な紫色の翼がスローモーションで羽ばたき、その先端が断続的に黄金色の小さな砂の煙を舞い上げていた。

 

「これは本当に、大変な変化ね」ダジールは言った。

「その通りです」アバターは言った。そして間を置いた。「そしてそれは、あなた自身の状況にも変化をもたらすかもしれません」

 

ダジールは振り返ってその生き物を見た。アバターは長椅子の向こうから、まばたきもせず、見開いた目で彼女をじっと見つめていた。

 

「変化?」ダジールが言った声は、それ自体の震えによって彼女の動揺を裏切っていた。彼女は再びお腹をさすり、それから自分の手を見つめて瞬きをした。まるでその手までもが自分を裏切ったかのように。

 

「確信は持てません」アモルフィアは白状した。「ですが、可能性はあります」

 

ダジールはヘアバンドをむしり取り、頭を振って長い黒髪を解き放ち、顔を半分ほど覆わせながら、部屋の端から端へと歩き回った。

 

「そうね」彼女は、今は小雨がパラパラと降り注いでいる塔のドームを見上げながら言った。彼女はホログラムスクリーンの壁に寄りかかり、アバターに視線を固定した。「これはいつ起きるの?」

 

「いくつかの小さな変更は‥些細なことですが、今実行しておけば将来的に多くの時間を節約できるようなことは‥すでに始まっています」とアバターは言った。「残りの、主要な部分については‥もっと後になります。1日か2日後、あるいは1週間か2週間後。‥もし、あなたが同意してくだされば」

 

ダジールはしばらく考え込み、その顔には様々な感情が浮かんでは消えたが、やがて彼女は微笑んだ。「つまり、これらすべてのことについて、私に許可を求めているの?」

 

「そのようなものです」宇宙船の代表者は、視線を落として自分の爪をいじりながら、口ごもるように言った。

 

ダジールはしばらくの間、アバターがそうするのをそのままにさせておいたが、やがて言った。

 

「宇宙船(シップ)、あなたはここで私の面倒を見て、私を甘やかし‥」彼女は黒ずくめの生き物に向かって努めて微笑みかけようとしたが、その生き物はまだ熱心に自分の爪を観察していた。「‥これまでずっと私の気儘に付き合ってくれた。私はその感謝の気持ちを十分に表現することも、恩返しを始めることさえ望めないけれど、あなたの決断を私が代わりに下すことはできないわ。あなたが適切だと思うようにしなさい」

 

その生き物はすぐに顔を上げた。「では、今からすべての動物たちにタグ付けを開始します」とアバターは言った。「そうしておけば、時が来たときに彼らを集めるのが早くなります。その後、変形プロセスを開始できるようになるまで、さらに数日かかるでしょう。その時点からは‥」アバターは肩をすくめた。

 

それは彼女がこれまでに見た中で、そのアバターが見せた最も人間らしい仕草だった。「‥ある種の解決に達するまでに、20日か30日かかるかもしれません。これもまた、明言するのは難しいですが」

 

ダジールは、40年間、自ら望んで持続させてきた妊娠によるその膨らみの上で両腕を組んだ。彼女はゆっくりとうなずいた。

「そう、」

 

感想:40年間持続させてきた‥妊娠を?産み待ちなのかい。

 

「教えてくれてありがとう」と彼女は愛想笑いを浮かべたが、突然、こみ上げる感情を抑えきれなくなり、涙に滲む視界と黒い巻き毛の向こうに、長椅子に横たわる手足の長い生き物を見てこう言った。「それで、あなたには他にやるべきことがあるのでしょう?」

 

雨に打たれる塔の上から、彼女はアバターが、木々のまばらな水辺の牧草地を通る細い道を辿り、二キロメートルの崖の麓まで戻っていくのを見つめていた。崖の麓は、粗い岩屑(スクリー)の斜面で縁取られている。細く黒い人影は、彼女の視界の半分を埋め尽くし、拡大機能で粒状に見えていたが、崖の底にある最後の一つの巨大な岩を乗り越えると、消えてしまった。

 

ダジールは目の筋肉を弛緩させた。その間、脳内の半ば本能的なルーチンが再びシャットダウンした。視界は通常に戻った。

 

ダジールは曇り空へ視線を上げた。塔の真上、雲の層のすぐ下に、箱凧のような生物の群れが空中に静止しており、暗い長方形の姿が灰色の空を背景に、まるで彼女を見張る衛兵のように佇んでいた。

 

彼女は彼らが何を感じ、何を知っているのかを想像しようとした。彼らの心に直接アクセスする方法はある。人間に対してはほとんど使われることはなく、動物に対してさえ、その知能の高さゆえに一般的には忌避される方法だが、それは存在しており、頼めば宇宙船は彼女に使わせてくれただろう。

 

また、そうした生物が何を経験しているかを完全にシミュレートする方法も宇宙船にはあり、彼女はその技術を何度も使っていたため、人間が模倣プロセスを行うのと同等の感覚が彼女の心に転移していた。

 

彼女は今、そのプロセスを呼び起こそうとしたが、結局は徒労に終わった。彼女は動揺しすぎており、アモルフィアに言われたことに気を取られすぎて、集中できなかったのだ。

 

その代わりに、彼女は訓練された心の目で、宇宙船全体を丸ごと想像しようとした。遠隔操作の機械で宇宙船を眺めたり、その周りを飛行したりした時のことを思い出し、すでに準備が進められている変化を想像しようとした。船全体を見渡せるような距離からは、その変化を捉えることはできないだろうと彼女は思った。

 

彼女は周囲を見渡し、巨大な崖、雲、海、そして空の暗闇を取り込んだ。彼女の視線は、波、海辺の湿地、岩屑の斜面と崖の下に広がる水辺の牧草地を巡った。彼女は40年近くそうしてきたように、無意識のうちに自分のお腹をさすり、物事の周縁性について、そして永遠に続くかと思われたものにさえ、いかに早く変化が訪れうるかについて思いを巡らせた。

 

しかし、彼女が痛いほどよく知っていた通り、私たちが永遠に続くと愛着を抱いて想像するものほど、しばしば儚いものである。

 

彼女は突然、ここでの自分の居場所、自分の立ち位置を強く自覚した。彼女は自分自身と塔が、宇宙船の内と外の両方にあることを認識した。メインハル(船体)の外側(明確で、独立しており、直線的で、正確にキロメートル単位で測られた場所だが)宇宙船がその重力場の重層的な層の中に包含している、水と空気とガスの巨大な包みの中にある(彼女は時に、その力場を、古代のフォーマルなドレスのフープ、アンダースカート、スカート、ひだ飾り、レースのようだと想像していた)。巨大なスプーン一杯の海に浮かぶ、権力と実体の塊。その広大な船体のほとんどは、中間層を形成する空気と雲にさらされており、太陽の線は毎日その周りをカーブを描いて移動する。そしてすべては、高温、巨大な圧力、粉砕するような重力を持つ、フィールドに閉じ込められた圧力容器でドーム状に覆われ、ガス惑星の環境をシミュレートしている。長さ100キロメートルに及ぶ空間、洞窟、中空の殻が、宇宙を駆け抜けていく。その中心には、広大で平坦化された「カーネル(核)」としての宇宙船がある。この世界の中に閉じ込められた世界であるカーネルの中で、彼女はこの40年の変わらぬ年月の中の39年間、足を踏み入れていなかった。沈黙した不死者たちが眠る果てしないカタコンベなど、二度と見たくもなかったからだ。

 

すべてが変わるのだ、とダジール・ゲリアンは思った。すべてが変わる。海も空も、石や鋼のようになるのだ‥。

 

黒い鳥グラヴィウスが、塔の石の手すりで彼女の手のそばに降り立った。

 

「何が起きているんだ?」とそれはしゃがれた声で言った。「何かが起きている。わかるんだ。一体何なんだ? どういうことなんだ?」

「ああ、宇宙船に聞きなさい」彼女は言った。

「もう聞いたさ。宇宙船は、何かしらの変化がやってくる、としか言わない」鳥はくちばしから不快なものを吐き出そうとするかのように、一度首を振った。「変化なんて嫌いだ」とそれは言った。それは首を回し、その小粒な目を彼女に据えた。「それで、どんな変化なんだ? 私たちは何を予期すればいい? 何を楽しみにすればいいんだ? 宇宙船は教えたのか?」

 

彼女は首を振った。「いいえ」彼女は鳥を見ずに言った。「いいえ、本当に何も」

「ふん?」鳥は一瞬彼女を見つめ続けていたが、首を回して塩沼の方を見つめた。

それは羽を逆立て、細い黒い足で立ち上がった。「まあいい」とそれは言った。「冬が来る。遅らせることはできない。準備するのが一番だ」鳥は空中へと飛び降りた。「役立たずめ‥」と呟くのが聞こえた。それは翼を広げ、渦巻くような軌道を描いて飛び去った。

 

感想:(笑)鳥、すき。まあ鳥からしたら理由を聞き出せるのはダジールしかいないのに、役立たずめ‥ってなりますよね。

 

ダジール・ゲリアンは再び雲を見上げ、その向こうの空を見た。すべてが変わり、海も空も石や鋼のようになるのだ‥。彼女は再び首を振った。これほどまでに長く彼女の家であり、隠れ家であった巨大な宇宙船を、これほどまでに駆り立てた状況の極限とは何なのだろう、と不思議に思った。

 

いずれにせよ、文明の「ウルテリア(辺境)」の一部として、自ら求めた荒野の中で気ままな航路を辿り、静穏な魂と非常に巨大な動物たちの保管場所として最も有名であったこの「GSVスリーパー・サービス(汎用システム艦)」が、40年にわたる自己課された内部亡命の状態を経て、再び「カルチャー」に属する船らしく考え、振る舞い始めているようだった。

 

感想:ふたたびカルチャー‥。あのカルチャーですか!うほっ!プロローグを読むあたり、ダジールと動物たちの海辺の物語ではなくて、ダジールとお腹の子を中心に何か動き出す‥って感じですかね。早くドローンの登場シーンがはじまらないかな。

 

イアン・バンクス『ゲームプレイヤー最終章と感想』

2026 / 06 / 28  21:59
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最終章.

 

グルゲーを乗せた宇宙船「制限因子」号は、気の遠くなるような距離を旅して、ついに「カルチャー」の領域へと戻ってきた。

 

船が目的地の軌道プレートに到着すると、グルゲーは小さなバッグを一つだけ持って、雪の降る地上のプラットフォームへと降り立つ。

 

ここで、旅を共にしてきたドローン‥フレールが最後のお別れを告げます。(泣ける)

 

「さよなら、ジェルノー・グルゲー。もう二度とお会いすることはないでしょう」(嫌だよ‥泣)

 

グルゲーは去りゆくドローンのフレールを見つめながら、「あのとき皇帝が撃った光線が反射したのは偶然か、それともお前が狙ったのか?」と尋ねるが、ドローンのフレールは「その件にはお答えできません」とだけ残して、静かに空へ去った。

 

グルゲーが雪のなかを歩いて自宅に戻ると、そこには懐かしい恋人の「イェイ」と、友人の四千年生きているドローン「チャムリス」が待ってた。

 

イェイは出発前、性別を「男性」に変えてグルゲーを送り出したけど、再会したときには再び「女性(両性具有的な美しさ)」へと戻り始めていた。

 

イェイは温かいワインを淹れてグルゲーを抱きしめ、温かく迎える。しかし、グルゲーの様子は以前とは完全に違っていた。

 

顔は青ざめ、虚ろな目でワインをすすり、自分が「アザド帝国を崩壊させてしまった」ことへの割り切れない思いを抱えていた。

 

グルゲーは、自分が勝つことをカルチャーが最初から知っていたという「ハメられた真相」を二人に語る。

 

それからさらに数年が経った。

 

アザド帝国はその後、カルチャーの計画通り「崩壊するがまま」に任され、かつての特権階級は失脚し、新しい社会へと再編された。

 

グルゲーは、かつて自分が軽蔑していた「ゲーム以外のくだらないお祭りやフェスティバル」に耳を傾けるようになり、少しだけ性格が丸くなった。

 

ある夜、隣で眠るイェイを起こさないようにそっとベッドを抜け出したグルゲーは、バルコニーに出て夜空を見上げる。

 

ポケットから、あの焼け跡で拾った皇帝の「アザドの指輪」を取り出し、冷えきった両手で温めながら、遠い星々の光をじっと見つめたのだった。

 

‥終わり。

 

ではなーい。

 

「まだ終わりじゃない。まだこのわたしがいる。いままで身元を隠してきたのは意地がわるいと思うが(中略)さて、わたしはだれか?」

 

この物語を最初から最後まで、さも客観的な小説のように語ってきた「ナレーター(わたし)」の正体とは‥。

 

はい、みなさんの想像通りです‥

 

人間ではなく、まさにグルゲーをスカウトし、皇帝をハメて、アザド帝国を裏で操って滅ぼした張本人、カルチャーの超高度マインド(人工知能)自身だったのだ。

 

最後のページには、カルチャーの言語(特殊な文字コードのような記号)とともに、彼の本名が記されて物語の幕を閉じる。

 

スプラント=フレール=イムサホー=ウー

(またの名を “モフリン=スケル”)

 

グルゲーは死んだ、と書いてある

 

補足!直訳調のSF用語が並んでいるので一見わかりにくいですが、結論から言うと、これはグルゲーがただ老衰や病気で死んだのではなく、「自分の死後、遺体を宇宙の太陽(恒星)に投げ込んで消滅させてくれ」という約束(あるいは生前の契約)をドローンと交わしており、死ぬと同時にその通りに処理された、ということを意味している。

 

カルチャーの人類は、お墓を作って死体を残したり、腐敗させたりすることを嫌う傾向がある。また、何百年も生きて人生を完全にやり切ったあと、「最後は宇宙の星の光(イルミネーション)の一部になって消えたい」と願うのが、彼らにとっての洗練された、幸福な死の形(美学)なのだ。

 

「粉砕された微粒子(グルゲーの原子)のひとつひとつが何千年もかけて‥すべてを包む夜のなかに、彼ら自身の小さい無意味なイルミネーションをつけたたすために‥」(抜粋)

 

あんなに大層なチェス盤の上で踊らされ、国家を滅ぼす大冒険をしたグルゲーという大天才も、死んでしまえばただの宇宙のチリ(光の粒)にすぎない。

でも、彼は最後に自分の意志で「星の光の一部になること」を選び、ドローンは約束通りそれを叶えてやった‥という意味だと思う。

 

 

 

 

これにて、完結。

 

やっぱり、フレールがモフリンだったのか!と言うか、全てのドローン(交換可能な端末)の記憶は、マインド(人工知能)に集約されているから‥。

 

読んでいて思ったのは、『ラリー・ニーヴンの「リングワールド」、と似ている設定だなーということ。どうやら「スターウォーズ」にも似ているらしい。(私はスターウォーズを観たことがないので、この夏にでも観てみよう。)

 

(設定)

◯未来の人類は銀河系全体に広がってる

◯労働も、貨幣も、法律もない究極の自由

◯人類は、生活のために働く必要がない

◯物資は無限にある

◯病気や怪我はすぐに治る

◯寿命は7〜800歳に達する

◯性別すら自分の意思で変更可能

◯実権を握るのは、超高知能AI

◯人間はただ好きなことをして生きてる

◯政治や社会の管理・運営はAIがやる

◯AI搭載ドローンたちが平和的にこなす

 

まあ、小説の内容を一言でまとめると、「ゲーム(社会)は支配のための宗教だった」ということなのかもしれない。

 

グルゲー(不自由ない世界で生きている現代人)は、ずっとゲーム(社会)を「公平な競技」と信じていた。

 

しかし実際は、皇帝(権力者)が‥

結果を操作する

歴史は捏造されている

勝者はあらかじめ選ばれている

ゲーム(社会システム)は権力維持の道具

ということ。

 

ゆえに、グルゲーが受けた衝撃は、帝国が腐敗していた事実よりも‥自分が愛していた(信じていた)ゲーム(社会構造)そのものが、誰かの都合による支配のための仕組みで、自分もその一部に過ぎない存在だった、ということでしょうな。

 

でも、悪いことじゃないんだよ、グルゲー。

 

人間はみんな、自分の都合の良い解釈で世界を見る。つまり、自分なりの「物語」を作り、その物語の中で生きている。

 

じゃあ、その物語の外にある「世界の構造」を知ることに意味はあるのだろうか?

 

今回のグルゲーは、自分が信じていたゲームの裏側を見てしまった。けれど、それでグルゲーは幸せになったのだろうか。あるいは、知らないままの方が幸せだったのだろうか。君はどう思う?

 

私はどちらが正しいとも思わない。心地よい物語の中で生きることを選ぶ人もいるだろうし、たとえ苦しくても構造の外へ出て真実を知りたい人もいるだろう。

 

大切なのは、「どちらが正解か」ではなく、自分で考え、自分で選び、自分で行動することなのだと思う。

 

この小説「ゲームプレイヤー」は、アザド帝国の崩壊の話というよりも、「世界をどう見るか」を読者に問いかける物語なのかも。

 

‥という感じの内容な気がするので、多感な時期である中〜高校生が読むと「なんだこりゃあー」と感動するのかもしれない。

 

それに、登場人物も少ないし、内容も単純で分かりやすいので、高校生でも読みやすいと思う。

 

ただ、やっぱり英米のSF小説‥スペースオペラというのは、登場人物の人間性がものすごく浅いんだ‥笑

 

どこかメンタルが健康的というか、悩みがテンプレート(テンプレ通りに自由を愛し、テンプレ通りに孤独を気取る)で、日本文学のような「人間の業(バグ)こそ美しい」が薄い傾向がある。

 

しかし、登場する異星人は「バグの塊」なのだ。「あー、こいつキチガイだわ‥」と思わせる何かがあって愛しみを感じる。

 

主人公はみんなのヒーロー!人間のバグなんてかっこ悪いぜ!という考えがどこかにあるからこそ、人間のダメなところと捉えている「バグ」は異星人の性格キャラに落とし込んでいるのかもしれない、といつも思ってしまうんだ(笑)

 

ずっと英米SF小説を読み続けると、作中にもあったとおり、思考の偏りがでるので、合間に日本のSF小説をなり挟むと良いかもしれない‥。

 

そんなことを考えている私の好きなキャラは主人公ではなく、ゲームプレイヤーに登場する「ドローンのモフリン、チャムリス、フレール」、リングワールドに登場する「パペッティア人のネサス」‥を愛してしまう!

 

 

イアン・バンクス『ゲームプレイヤー3章-5』

2026 / 06 / 27  21:57
イアン・バンクス『ゲームプレイヤー3章-5』

 

 

5.

 

グルゲーが目を覚ますと、そこは灰が降り積もる、石造りのバルコニーだった。

 

城砦の多くの塔が崩壊し、あちこちから煙が立ち上っている。

 

かつて華やかだったゲーム会場は完全に焼け落ち、ねじれた梁や崩れた石材が積み重なる地獄絵図と化していた。

 

グルゲーは、皇帝が指にはめていた「アザドの盤面の模型」がついた指輪を灰の中から拾い上げ、ポケットに収める。

 

そこに新しいドローンがふわふわと飛んできた。

 

それは、先ほどグルゲーを庇って砕け散ったドローン(フレール)の記憶を引き継いでいる「新しい(スペア)ドローン」で、名前は「スプラント=フレール=イムサホー=ウー」。

 

ドローンのフレールは、陽気にグルゲーに挨拶します。

 

以下は、グルゲーとドローン(フレール)の会話です。

 

グルゲー:なぜ皇帝はあんな狂った命令(自国民の虐殺や会場の爆破)を出したんだ?

 

ドローンのフレール:皇帝は、自分がゲームで(カルチャーという機械文明)に負けることを事前に悟っていました。

 

アザド帝国において、ゲームの敗北は「皇帝の失脚」を意味します。

 

それに耐えられない皇帝は、「暗殺の危機が迫っている」という嘘の口実を作り、近衛兵を自分の支配下に置き、あらかじめ城砦全体を爆破して「ゲームごとすべてを白紙に戻す(道連れにする)」計画を立てていたのです。

 

あなたは利用されたんですよ、ジェルノー・グルゲー。実は、試合が始まる前の晩、カルチャーの代表であるマインド(人工知能)は皇帝と裏で「ある密約」を交わしていました。

 

もし皇帝が勝てば、カルチャーは帝国に一切手出しをしない。しかし、カルチャー側(グルゲー)が勝てば、帝国を撃破し、新しい秩序を敷く」という密約です。

 

皇帝はプライドのために、この密約乗り、そして負けたからこそ、あのような凶行に走ったのですよ。

 

グルゲー:マインド(人工知能)たちはぼくが勝つと知っていたのか?

 

ドローンのフレール:正解!カルチャーのマインド(人工知能)たちは、最初からグルゲーの能力ならアザド帝国のゲームなど100%必勝できると計算し尽くしていました。

 

つまり、カルチャーはアザド帝国を内部から崩壊させるために、一番都合のいい「無敵の天才の駒」としてグルゲーをスカウトし、完璧なシナリオ通りに帝国を破滅へと導いたのですよ。いやー、緻密な計画‥マインドには尊敬ですね‥。

 

すべての真相を知ったグルゲーは、ため息をつきながらも、これ以上この血臭い帝国に留まる意味はないと悟る。

 

ドローンのフレールに促され、上空に待機している母船の回収モジュールへと乗り込み、故郷であるカルチャーへ帰還する。

 

はい、ここまでが第3章-5の話ですな。

次の投稿で終わります。

 

 

イアン・バンクス『ゲームプレイヤー3章-4』

2026 / 06 / 20  18:01
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4.

 

ああ、ゲームの勝利はグルゲーだろう‥という空気の中。

 

グルゲーは、夜の庭を散歩する。

 

すると、いつもの派手衣装とは打って変わり、喪服みたいな服装の皇帝がやってきたので、ふたりはベンチに腰掛け会話をした。

 

以下、グルゲーと皇帝の会話。

(最初の世間話は割愛します)

 

皇帝:お前の故郷カルチャーは、マインド(人工知能)が支配する、感情のないシステムだ。栄光も、誇りも、崇拝も知らない、ただ武力を持っているだけの無気力な機械だ!

 

お前は国を代表しているつもりか? 民を代表しているつもりか? 違う。お前は自分自身以外の誰も代表していない。ただゲームをプレイするためにここへ来た!

 

それに、カルチャーの母船がアザド帝国の他の宇宙船をすべて無力化し、すでにアザド帝国が手遅れな状態(カルチャーのコントロール下)にあることくらい俺は気づいているさ!

 

グルゲー:ゲームはすでに終わっている。勝敗は最初から決まっていたんだ。なぜそんな無意味なゲームを最後まで命がけでやったのですか?

 

皇帝:カルチャーという「機械」に対して、アザド帝国という『人間(生命)』の意地と誇りを見せるためだ。そして、グルゲーという一人の男を真の絶望に引きずり下ろすためだけに、最後まで対局を続けたのだ。(ニコサールはグルゲーの顔を見つめ、残酷に笑う)お前のようなタイプには絶対に理解できないだろう。お前はただ利用されるだけだ。

 

皇帝に殴られたグルゲーは、口から血が出る。

 

皇帝:闘争こそ繁栄のもと。戦っておのれの価値を証明せよ。ゲームがわれわれに教えたのはそれだ。闘争こそ繁栄のもと。戦っておのれの価値を証明せよ。(中略)自分はその全てをやり、そのすべてをいいつくした。いまここでできるどんな説明よりも巧みに。おまえはまだ勝っていないぞ、グルゲー。

 

グルゲー:(ひとり残されるグルゲー)

 

(グルゲーは、自分のゲームの才能で、皇帝に勝ち、カルチャーの任務を果たしたと思っていたのだろう。しかし実際のところ、カルチャー(マインド)というシステムは、最初から圧倒的な武力と計算でアザド帝国を詰んでいて、グルゲーのゲームはその「お飾り」に過ぎなかったのだろう。皇帝は、そのカルチャーの残酷な意図をすべて見抜いた上で、「俺はゲームには負けたが、誇りまではカルチャーのクソ機械に売り渡さない。お前(グルゲー)も、ただの便利な駒として操られていただけの哀れな人形だ」という真実を突きつけたのだろう。)

 

翌日、ゲーム最終決戦日。

 

会場は異様な熱気に包まれていた。

ここでドローンのフレールが、ある異常に気づく。皇帝の側に立つ大佐が、光リモコンのマイクをつけ、皇帝と密かに通信してゲームの「カンニング」を行っていたのだ。

 

それだけではない。

 

皇帝は、ゲームの駒を配置しながら、「ゲームの盤面での出来事」を、現実の会場の「物理的な攻撃(爆破やレーザー銃)」と連動させていたのだ。まさにリアルバトル(笑)

 

ゲームが進むにつれ、会場のあちこちで本物の爆発が起き火災が発生し、皇帝はゲーム盤を通じて、会場全体を地獄絵図に変えていく。

 

当然の如く、会場は完全にパニックに陥る。

皇帝が「最後の火のカード」を切ると、緑色の火のオーラが広がり、皇帝の側近たちが観客に向けて「銃を乱射」した。

 

華やかな衣装を着たアザド帝国の貴族たちが次々と撃たれ、床は死体で埋め尽くされた。

 

そんな地獄の中で、皇帝は狂ったように笑いながらグルゲーに言う

 

「ゲームを現実に変えたのだ、グルゲー」

 

皇帝にとって、アザド帝国のゲームとは「闘争と虐殺そのもの」であり、完全な負けを悟った皇帝は、会場にいる自国民もろともすべてを道連れにする破壊を始めたのだった。(おもしろい)

 

しかし、ゲームの盤面そのものは、グルゲーが完璧なチェックメイト(勝利)を完成させているという皮肉。

 

その皮肉な空気‥ゲームで完全に敗北したことを知る皇帝は、ついに狂い、本物の両刃の剣を抜いてグルゲーを直接殺そうと襲いかかってきた。(おもしろい)

 

グルゲー:皇帝の腹部に蹴りを入れる。

 

二人は血まみれになって床を転がり回る。

 

皇帝:剣を振り回し、グルゲーの喉元をかすめる。もう一回突き刺そうとする。

 

その瞬間‥!

ドローンのフレールの神技により皇帝の剣を弾き飛ばした。

 

次の瞬間‥!

天井の「電子遮蔽装置」が崩落し、会場は炎と煙に包まれた。グルゲーがふと前を見ると、皇帝は仰向けに倒れていて、その額の真ん中には、煙の立つ丸い黒い穴(弾痕、または崩落の直撃による即死の傷)が空いていた。

 

皇帝は、ゲームでグルゲーに完璧に敗北し、さらに力ずくでグルゲーを殺そうとしたものの、最期は自らが引き起こした地獄の崩壊に巻き込まれる形で、惨めに死亡したのだった。

 

 

はい、ここまでが第3章-4です。

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